金沢市柿木畠にあるそば店。店主の藤井誠さんは、東京の麻布十番にある更科蕎麦の老舗「総本家 更科堀井」さんで腕を磨かれた方で、江戸そばの楽しみ方を金沢に根付かせた人でもあります。そばだけのお客さんはサッと食べて席を立ち、お酒をたしなむ方は、かえしで仕上げた焼鳥や玉子焼き、板わさや焼きのり、そばみそなどをアテに日本酒を導き、締めとしてそばを手繰ってから店を後にします。店主とのさりげない会話を楽しみながらの一時は格別な時間。今や金沢になくてはならない名店です。
【紹介項目】
(最終訪問 2020年8月26日)
更科そば、季節の変わりそば、旬のそば
更科そば
藤井さんの看板になっている“更科そば”とは、そばの実の芯の部分だけを用いて打つそばのことで、美しい純白色が特徴的です。まるで新雪をかぶった冬の白山のような白色で、通称「白雪」や「白糸」などとも呼ばれています。一見そうめんのように見えますが、エッジがきいておりシコシコとしています。
●すだちおろしそば
鼻腔をスッと抜ける趣ある柑橘の風味が、上品で凛とした味わいの更科そばをよりいっそう引き立てます。やけに涼しく感じる喉ごしもたまりません。
季節の変わりそば
更科そばに季節食材を練り込んだのが“季節の変わりそば”。これも藤井に足を運ぶ楽しみのひとつ。(内容は旬やその日によって異なります。)
●トマト(1450円)(2020年8月26日)
実は10年の悲願(大袈裟だけど本当に悲願)でようやくありつけました。“夏の藤井のトマトそば”というやつが食べたくて毎夏過ごして来たのに、夏のイベントや帰省、海外が入ったりと逃してばかり。現在の店に移転する前から食べ逃していたので、本当に10年の片思いでした。
このトマトそばは、かき氷にヒントを得て一度改良しています。削ったトマト氷をのせて、見た目からキーンとひんやり。トマトは更科そばにも練りこんであるので、そばがほんのり薄紅色をしています。
トマトの旨味成分グルタミン酸が藤井のつゆに溶け合うことで、いつものそばつゆがちょっと違う顔を見せるのも面白い。太陽を浴びて育った元気のある旨さと酸味が一口ごとに立つ。ご存知トマトはイタリア料理などにも使用される食材ですが、つゆの旨味で“和”として着地し余韻する。キリッとした繊細なそばによく合うようになっています。堪能しました。
●青じそ(1450円)(2020年7月23日)
見た目にも涼やかな夏の変わりそば。更科ならではの、しこしこくる喉ごしにも夢中になりました。
●青みかん
青みかん切りはほんのり緑がかっており、透明感があってつやつやと美しい。口に入れた瞬間、すだちのような香りがふーっと広がり鼻腔を抜けます。熟れたみかんの甘々しさはなく、清涼感があってさっぱりキレのある味わいがそそります。塩で頂くのが抜群にうまかった。
●ゆずきり
ほんのり柚子色が美しい。口に入れた瞬間、柚子の香りがふーっと広がり鼻腔を抜けます。
その他にも、山椒、無花果、柿、栗なども登場します。
旬のそば
小麦粉とそば粉を2対10で合わせた“外二八”は、更科そばよりもややソフトな口当たりで、ムチっとした弾力があります。
●なめこおろしそば 冷かけ(2020年10月)
●もずくそば(1650円)(2020年6月19日訪問にて)
コシのある岩もずくを乗せた初夏らしいそば。キリリとした細打ちに食感が呼応します。
●うにそば(時価。3000円くらい)(2020年6月19日訪問にて)
お客さんからのリクエストでメニューに再度加えたそうです。時価?なのでなかなか注文しにくいですが、一度は食べてみたいやつでした。ウニの贅沢な甘さがぽわーっと広がる。
人気の定番
●納豆そば
ファンの多い一品。つゆには溶き卵が入っており、納豆とそばによく絡みます。さらに、納豆の発酵食品のコクに、さらにまろやかさが加わり味わい深い。たまにザクリと感じる天かすのアクセントもまたいい。うまい。
●白海老天そば
●鴨せいろ
具だくさんの熱いつゆに冷たいそばを付けて頂きます。
藤井の酒と料理
まずはお酒とおつまみで楽しみたい方は、藤井オリジナルの数馬酒造「竹葉」もぜひどうぞ。ややしっかりしていて、魚介とも合わせやすい、海の酒蔵らしい日本酒です。
●旬菜3点盛り
旬の野菜なり魚なりにちょいとシゴトをして、ひょいと出してくれるのが“そば屋のアテ”というもの。季節のうまいところを少しずつ出してくれますよ。
●梅くらげ(写真右)
●岩もずく
●のど黒と金時草の酢の物
●秋刀魚と無花果のごま和え
●鱚とアスパラの天婦羅
●そばみそ
白味噌にそばの実やネギ、青唐辛子を合わせて炙ったお酒のアテ。甘くまろやかな味噌の味わいに、そばの実のゴリっとした食感と香ばしさ、じんわり広がる辛味があって、日本酒が進んでしまうのは言うまでもないですね。
●出汁巻き玉子
お酒とおつまみを楽しんだ後は、〆のそばをどうぞ。
藤井の年越しそば
藤井さんは毎年大晦日まで営業されており、“年越しそば” が食べられます。営業は11:30から21:00くらいまでで、完売したら終了。
毎年混み合うので、早めに行かれたほうが良いかもしれません。大晦日は通常出されていない、「海老天そば」も登場します。修業先で1日1000個は作っていたという海老天を、大晦日限定でメニューにプラスされます。一年の〆として、更科藤井さんで年越しそばを食べるという方多いです。