(2018年11月28日最終訪問。30日閉店)
金沢には有名料亭がいくつもありますが、つる幸さんは中でも代表格。数々の食通の方が訪れている名店です。贔屓にされていている方も多いですね。店主の河田康雄さんは二代目で、修業は「大阪の味吉兆」にてされたそうです。1994年若干28歳にして「料理の鉄人」に出場し、道場六三郎さん(石川県出身)と対決されたのは有名な話。オンエアは1994年11月4日で鮟鱇対決でした。テレビ番組「情熱大陸」で特集されたことも記憶に新しく感じられます。さらにテレビ番組「人生最高のレストラン」で鹿賀丈史さんがゲストの時に鹿賀さんの人生最高のレストランとして紹介されていたのが、厨房のピカソと言われるピエールガニェールとつる幸河田康雄さんです。数々のすごい料理を食べてきた鹿賀丈史さんが選ぶのがつる幸さん。これもまたすごいことですね。
(ちなみにつる幸初代の河田三郎さんは1931年(昭和6年)生まれなのですが、道場六三郎さん、小松弥助の大将森田一夫さん、このレジェンド御三方は同い年です。偶然か必然か、石川県の最高峰料理人3名が同年齢!!)
その「つる幸」が2018年11月末で閉店するという衝撃の発表があったのが6月。金沢ではもちろん大きなニュースに。
しかし、現在の場所からほど近い場所に新しい店舗を構えられるそうです。ただし、“お座敷で懐石料理”というスタイルは辞められて、次はカウンターのお店になります。河田さんが目の前で料理されるのを拝見しながら...というのは、贅沢の極み!そして河田さんのお考えになる起承転結を日本料理に吹き込まれるようですよ。
次のお店の名前はもう決められており、「日本料理 せつ理」とされるそうです。
個人的にも「つる幸」閉店は、数々のおいしい思い出があるのでとても寂しいです。正直、しばらくつる幸ロスからは抜け出せそうにありません。数々の経験・勉強をさせていただきました。この場を借りて御礼を言いたいです。本当にありがとうございました。次のお店を楽しみにして待つしかないですね。
こちらはつる幸の外観。建物からも大料亭であることがよく分かって頂けると思います。
【受賞歴】
・「ミシュランガイド富山石川(金沢)特別版2016」2ツ星獲得
・「ゴエミヨ東京・北陸2017」17.5/20点獲得(北陸最高得点)
河田さんのお料理は、精度の高い仕事の上に意表を突くサプライズを加えた感動の連続で、食べ手の心を掴んで離しません。そのためお店を後にしても演劇を観終わったような夢心地。訪問翌日まで「ああ、つる幸さん良かったなぁ〜」と浸っている自分がいます。食材の意外な食材の取り合わせで、複合的な味わいのマトリックスを披露しているところにも注目です。トリュフやスパイスなど意外性のある食材を合わせ、一歩先にあるおいしさを構築してあるのには毎度驚かされます。
昼も良いですが、やはり夜のしっかりコースも味わっておく価値があると言えます。私は昼も夜も一通りの価格帯で食べたことがありましたが、やはり夜の3万円コースに大きな価値を感じました。なぜならば、高級食材を活かし切っているから。変な言い方ですが、“いくらまで”というリミットが無い中で河田さんに料理を作ってもらうのがいい(そんなこともちろんお財布的にもなかなかできませんが)。素材力の上に大輪の花が咲いたようなお料理が楽しめます。
また、さすが名料亭たるホスピタリティー、しつらえも細部まで凝っていることは言わずもがな、特筆したいのは器です。大女将がいつも解説してくださいますが、お茶をされている方や伝統工芸に携わる方なら器にも震えるはずです。伝統工芸のプロの方と訪問した際は、つる幸さんの器の素晴らしさに息を飲み、何度も魅入っていらっしゃいました。(コース料金や人数によっても器は変わります。)
本当に料亭というところは、食べ手の知識も求められる場所だなぁと思います(良い意味で)。それがたまらないですね。
※今までの訪問を全部取り上げると結構な数になってしまいますので、近々でとても印象に残っているコースとスペシャリテを紹介します。総括を長くさせて頂きましたので、お料理の解説は最小限に。
2018年初秋のつる幸
9月1日の1日前に伺ったので、夏が終わってしまうという寂しさがあったのですが、秋食材の「はしり」をふんだんに盛り込んでくださって、一足お先に秋を食せた喜びでいっぱいになりました。
・能登牛ローストビーフ、能登鮑、イチジク
最初の一皿がこれですよ。もうハート掴まれました。器は貝合わせになっていて、つる幸さんでもとても大切にされているもの。天然のものですから、1つ1つ趣が異なります。
・八寸
六角の大きな塗り物が運ばれてきたと思ったら2段になっていて、中には秋が詰まっていました。立派な菊の花、銀杏に見立てたポテト、本物同然の茶そばの栗のイガも。トロの握りは軽く燻製がけにしてあって、スモーキーな香りととろける脂の好相性に驚き。スペシャリテの一つであるイカスミのシャーベット茶碗蒸しも(下記に記載)。
・お吸い物
アマダイと松茸のお吸い物でしたが、まずは器の素晴らしさになかなか蓋が外せませんでした笑。ようやく蓋を外したところでまた吐息が漏れる。なんて素晴らしいんでしょうか。
・お造り アラ、シラサエビ
矢のような形をした織部です。こんな器にはもう出会えないかもしれませんね。本当に大切にされている器だと思います。貴重な経験をありがとうございます。私には身に余ります。
・お造り ボタンエビ
頭は揚げて、味噌の部分を頂きました。
・鮎の塩焼き トリュフソースで
・伊勢海老 揚げ物
・雲丹そうめん
大正時代のガラスの器にて。この器が出てくると緊張するやら嬉しいやら。感謝です。つるりと風流なおそうめんに絡みつく濃厚な雲丹が、説明の必要がないくらい美味。
・栗松茸ご飯、赤出汁、香の物
季節のはしりをつる幸さんで堪能できる幸せ。それを口いっぱいに頬張り、もちろんおかわりです。
・ルビーロマン、果実のブリュレ、お菓子
こんな大粒のルビーロマン、なかなか食べられません。上等なランクのものです。
果実たっぷりのブリュレ、最後はお菓子とお薄を頂きます。
2017年10月のつる幸
こちらは10月のディナーで3万円以上のコースです。実りの秋、さまざまな食材が旬を迎える季節ですから、伺う前からドキドキでしたが、良い意味で期待を裏切られました。
・伊勢海老の温製サラダ
それは立派な伊勢海老の登場に、最初から心をガッチリと掴まれてしまいました。“サラダ”と聞くと構えずに済むからでしょうか、そんなネーミングなのですが、なんと能登産の松茸も入っていました。しかも豪華なだけじゃない!調理は端正で、火入れまで気を抜かずみずみずしい仕上がりで美味。
・八寸
カマスの燻製ずし、インカのめざめコノワタがけ、フォアグラのゼリー寄せ、イクラ、シャインマスカットの白和え、香箱蟹(石川県が解禁前だったので新潟産にて)、茶そばで作った栗のイガは本物と見間違うくらいの完成度の高さ!
茶碗蒸しはうなぎ蒲焼きのせで、なんとスパイスが効いているという驚きあり。スパイスの香味とうなぎは相性抜群。
・お吸い物
カブラを菊の花に細工した「菊カブラ」に蒸し雲丹をのせて。蕪の甘さが蒸した雲丹にぴったりなんですね。素材の甘さを味方に付けた、秋らしいお吸い物でした。
・お造り
加賀太きゅうりを使い、千枚田をイメージした演出。新米の季節にこれは嬉しい。出てきたら必ず歓声のあがる一品だと思います。
上段左から、ヒラメ、甘海老ラー油射込み、天然マグロ、サルエビ、カツオ、バイ貝、サワラ、アカイカ、ガスエビ。お醤油と梅肉ソースで。
ラディッシュのトンボ、キュウリで作ったカエルにはもろみ味噌が!
・能登アワビのソテー
能登産を丸々1つ独占!というのにも喜びひとしお。厚切りを頬張る嬉しさよ。味の寄り添わせ方もさすがですね。食材の個性を持ち上げながら、オーソドックスではない美味しさに仕上げてあります。うまい!
・能登牛の鍬焼き
柿釜で秋らしい演出。脂は上質ですが、山椒で引き締めてあるのもいい。丹波の黒豆を添えて。
・海老芋と穴子の湯葉あんがけ
揚げ海老芋と穴子の甘さ、香ばしさ、そして食感がマッチ。さらに湯葉あんかけが全ての食材を優しく包み込んでまとめあげている一品。なるほど、そう合わせるのか!と納得。こちらも能登の松茸が添えてあります。
・蓮根餅のくず葉包み
からすみ入りで塩気が上手に寄り添い、シャクシャクともちもちの食感も美味。くず葉の青く清涼感のある香りにも誘われます。
・松茸ごはん秋刀魚の燻製のせ、赤出汁、香の物
秋満載のお食事!端正な味わいの松茸ごはんに、秋刀魚の燻製がいいうまさと旬を添えています。香の物は、糠漬けの他にナスいしる漬けなど多彩。ここまでのこだわりにもう感服。
・水菓子 グレープフルーツグラタン
柑橘の弾けるような酸味がツンツン来そうですが、爽やかで優しく、ジューシーに仕上がっているのがスゴイ!
・お抹茶、お菓子
つる幸のお食事
お料理もちろん、つる幸さんで記憶に残っているのが「お食事」なんですよね。毎度楽しみ。
●タケノコご飯(春)
炊き込みご飯を、春慶塗りのおひつで出してくださいました。さらに驚くのは、塩昆布とキャビアの昆布締めの味を添えて頂くところです。キャビアの昆布締めなんて食べたことなかったですが、通常のキャビアよりも横幅のある旨味が加算され、味にまろみが増し、大変美味なものでした。タケノコご飯自体も、さすがご飯と調和のとれた上品な仕上がりで、風味の演出も程よい。シンプルなものだから、こんなに端正に仕上げるのも大変だと思います。
●鮑と新生姜ご飯(初夏)
●トリュフご飯
馥郁たる香りと共に運ばれてきます。この香りだけで白いご飯が食べられそうなくらいです(笑)他の茸からも旨味が出ているので、味わいも抜群。味と香りの掛け算で旨さはマックス値に。
つる幸のスペシャリテ
まだいくつかありますが、食べたことがあるものをご紹介します。
●能登牛のアスパラ鍋
薄切りにした能登牛と細切りにしたアスパラの鍋で、なかなかない取り合わせですが、これがなかなかのマッチングで驚きがありました。アスパラと木の芽を肉で巻いて食べると、木の芽が爽やかな風を吹かせ、さらに牛のミルキーな味わいを際立たせます。アスパラの淡泊さとやや残るシャキシャキ感もいい具合。なるほど!な一品です。
●加賀太きゅうり釜 治部煮(蒸しアワビ、才巻、太胡瓜、椎茸、ミニオクラ、蓮根、なでしこ麩)
私も大好きな一品なのでコースに追加することもあります。ご存じの通り、治部煮と言えば江戸時代から伝わる金沢の郷土料理で、出汁はこってりした甘さのあるとろみ餡ですね。つる幸の治部煮は、加賀野菜である太きゅうりをくり抜いて器にした風流な料理です。最初は蓋を被せて出てくるので、太胡瓜一本が器に鎮座している状態でインパクト大ですよ。透明感のある出汁餡と、きゅうりの青い風味とのマッチングが絶妙で、喉の奥が震えるうまさです。
●イカスミシャーベットの茶碗蒸し
シャーベット状のイカスミを削って茶碗蒸しにはらりとのっけてあります。下の茶碗蒸しはアッツアツですから、時間とともにイカスミが溶け、濃厚なソースの役割を果たします。うまい。