「茶寮 杣径(そまみち)」能登の塗師 赤木明登さんが山奥にオーベルジュを開業。唯一無比の料理と世界観

料理: 7.2 その他: 8.8 ポイントについて
茶寮 杣径 (さりょう そまみち)
営業時間
定休日
価格帯 一泊二食の宿泊プラン(44,000円 税サ込)
訪問回数 2回(プレオープン1回、グランドオープン後1回)

能登の塗師 赤木明登さんが、輪島の山奥に開業した日本料理オーベルジュです。
2023年7月18日にいよいよグランドオープンしました(これまではプレオープンとして営業されておりました)。

杣径さんのページには、“塗師 赤木明登と料理人 北崎裕がつくる奥能登の日本料理オーベルジュ。あるいは山中の寓居”というフレーズが載っているのですが、これも赤木さんらしく、感性を優しく刺激してくれて好きです。
そう、ここは“人生の旅人がようやく辿り着いた森の中の仮住まい”なのです。
※寓居(仮住まいの意味)

塗師 赤木 明登(あかぎ あきと)氏
1962年岡山県生まれ。中央大学文学部哲学科卒業後、世界文化社の編集者を経て1988年に輪島へ。輪島塗の下地職人・岡本進のもとで修業後、1994年に独立。現代の暮らしに息づく生活漆器「ぬりもの」の世界を切り拓く。ドイツ国立美術館「日本の現代塗り物十二人」に選ばれ海外でも高評価を受ける。2004年にはドイツ国立ディ・ノイエ・ザムルング美術館に作品が収蔵されるなど、国内外で高い評価を受ける。

赤木さんの工房「赤木明登うるし工房 有限会社ぬりもの」は輪島の山中にあります(石川県輪島市三井町内屋ハゼノキ75)。携帯電話は圏外という人里を離れた場所で、自然と一体化した山小屋で作品の製作をされています。

杣径も、同じく能登の山の中にポツンとあるのですが、工房からは車で10分強ほど離れた門前方面にあります。以前からご友人を迎えるゲストハウスとして使用していたお家だったそうで、今回リノベーションをしてオーベルジュとして新たな命が吹き込まれました。
赤木さんの頭の中を可視化させたような空間で、自然と一体化しているけど、異次元で、さらに心地良くて、どこにもない唯一無比の世界観です。

杣径の空間

設計士は中村好文さん。
以前は工事中だった1階の広間が完成しておりました。
辺りの緑を全面に臨む大きなガラスが入っており、山との境界線がない造りです。

本棚
寝室は2階にあって、くるくると螺旋階段を登って行きます。
同オーベルジュを象徴する、天井まで届く圧巻の本棚がお出迎え。見上げる高さの本棚に驚かない人はいないはず。知の宇宙に迷い込んだようです。

ベッドルーム
寝具はリネンの肌触りが心地良くて、夜は夢の世界にスッと入れます。

お風呂
訪れた方みなさん感激されるのが、漆塗りの浴槽です。
漆は匙でも口当たりの優しさがよく伝わりますが、なるほど肌触りも良くて、足裏からも漆の柔らかな質感が感じられます。

何から何までこだわりが詰まっており、しばらく滞在すると、赤木さんの世界観に染まってしまう。

杣径の夕食

料理を担当するのは、北崎裕さん。
金沢「六味一滴」で腕を振るわれてから、自遊人グループ「里山十帖」全店の総料理長を務められ、もっとご自身の料理を突き詰めたいという思いから奥能登に来られました。

料理は、他にはない独特な料理で、摘み草料理でありながら、江戸時代末期以前の調理法で表現してあります。それゆえ、貪るような美食ではなく、原点に立ち返って、持続の大切さにも気付かせてくれるような料理です。
とても哲学的であり、通常感じている“美味しい”という感覚とはまた別の感性で味わうべき料理なので、どういう料理なのか解説を入れてもらうと入って来やすいと思いました。何も知らずに食べると物足りなく感じてしまうのですが、趣意を知った上で食べると勉強になります。「昔の人ってこういう料理を味わっていたのかもしれない」と想像しながら、タイムスリップしながら味わうのも楽しいかもしれません。どことも比べられない、ここだからこその唯一無比のお料理です。

また、砂糖と味醂は使用していないのも特徴的(お醤油は白醤油のみ)。
お出汁は「精進出汁」がベース。昆布と干椎茸と玉ねぎの3つで作られた出汁で、どの味も主張せずに均衡を保っているという、絶妙なバランス感が味わいどころです。

輪島の白藤酒造店さんが仕込んだ、杣径オリジナル酒もペアリングで味わえます。

●金糸瓜、シタダメ、豆腐ソース
冒頭にシタダメが出てきて、コースのコンセプトを教えてくれるようでした。
シタダメは小さな巻き貝で、「小さい頃はたくさんとって塩茹でにして針で身出しして食べたよ」という能登の方は多いはず。古き良き思い出、心の琴線に触れる一品。

●揚げ物
「夏月(かげつ)」という名の、赤木さんの吹き漆の器にて。

●マハタ、アマダイ
(大豆は使わず)小麦で仕込んだ白醤油で。

●鮑 酒蒸し
どっしりとしていて温かさのある、陶芸家 松本かおるさんの作品に引き込まれました。

●のど黒、トマト
精進出汁にのど黒とトマトの旨味も溶け合います。

●太刀魚、赤万願寺、パプリカすりながし

●ズイキおひたし
白磁の器は、陶芸家 黒田泰蔵さん製。

●青茄子あんかけ
コースの中で1番印象に残りました。翡翠ナスと言われる青茄子の美しさ、とろとろきめ細かい舌触りと口溶け。あんかけには、精進出汁に鰯と鰹出汁とアゴ出汁を加えてあり、コースに濃淡もつけています。

●タコ、タコ煮汁をオリーブで乳化

●サザエご飯
杣径では、“巾着(きんちゃく)”という名前の珍しいお米を使用しています。
加賀藩時代に育てられていたお米で、その品種を七尾で復活させたそうです。年貢米として徴収もされていたそうです。
糖度が低いので、豪奢な味とは対極にある、しみじみ素朴な味わいです。

●胡麻豆腐のアイス、ピオーネ、桃
胡麻の滋味で締めくくるのが、杣径さんらしい余韻の残し方で良いと思いました。

●ドクダミとミントのお茶

杣径の朝食

太陽に起こされ、緑に包まれながら大きく深呼吸して、健やかな朝の始まり。
朝食は格別な美味しさでした。杣径のコンセプトにもピッタリなので、スッと入ってきました。

まずは白湯から始まります。胃から全身に染み渡り、細胞を起こしてくれるようです。

最初の一品は、超シンプルな精進出汁と塩と山椒オイルのスープ。
朝、改めて精進出汁を味わうと、夜よりも味覚が研ぎ澄まされているのか、また新鮮に感じられます。

“巾着”のご飯、焼き茄子のお味噌汁、カマス、副菜各種、瓜・大根の糠漬け

お味噌汁には、焼き茄子、ツルムラサキ、玉ねぎが入っており、自然の甘さが引き出されていて一際美味しかった。

温泉たまごには生山葵の薬味を乗せてあり、フレッシュなアクセントになっていました。

とても丁寧に作られていることが伝わって、里山の景色を思い浮かべながら味わうことができました。

杣径の夕食 2022年夏(プレオープン)

●山の湧水
折敷は、伝統的に魔除けとしても知られる麻の葉文様が彫られています。

●お花の天ぷら
近隣で採れた、ウドの花・三つ葉の花・オクラの花を天ぷらに。野趣に溢れ、健やかな苦味が細胞を起こしてくれる感じ。珠洲の天然塩で。

●赤玉ねぎ
蒸した赤玉ねぎを、赤玉ねぎとどぶろく、ビーツのソースで。酒粕のような優しいコクが、赤玉ねぎのジュと合わさる。

●縞海老
お醤油は使わないので、縞海老お造りも味の添え方が独特。ビーツ、コリアンダーオイルの個性的な風味で。

●鱸の潮煮、アオサ

●サザエ
サザエを酒粕と白味噌で和えて。潮騒感じる能登らしい味わいで美味でした。金時草と。

●鮑お粥
優しいお粥に、鮑に味付けとして添えた塩味が海の香りと共にグラデーションを描きます。

●珠洲の岩牡蠣

●サゴシの塩焼きトマト

●塩おでん バイ貝、南瓜、トマト
炊き合わせとしておでん。お醤油を使用しないので、おでんも塩おでんとして。冷やしなので味が落ち着いていて食材の個性が感じられる。

●緑ナス、自家製ハム
ギュッと身が詰まった緑茄子はシルキーで旨味がしっかり。
器にも注目で、銀杏の生地が紙のように薄くて美しい。

●そうめん
そうめんの原型になったと言われる、奈良時代に中国から伝えられた手延麺「索餅(さくべえ)」です。機械では出せない波打つ舌触り。
つゆは冷たいいりこ出汁で、旨味にミネラルを感じる涼しい美味しさ。能登でよく食べらるアカモクという海藻と共に。
涼やかなガラスの器は、艸田正樹さんの作品「冷たい水」で。

●デザート
巨峰、水寒天