ご存じ、「NARISAWA」オーナーシェフの成澤由浩(なりさわ よしひろ)氏は日本を代表するシェフ。「The World 50 Best Restaurants(世界のトップレストラン50)」のランクインは常連。「Asia’s 50 Best Restaurants」では2013年に1位になっております。
成澤シェフの料理のテーマは“イノベーティブ里山キュイジーヌ(Innovative SATOYAMA Cuisine)”で、お皿の上から、食べ手に生産地や生産者の存在を教えてくれます。「サスティナビリティーとガストロノミーの融合」をテーマにした、土のスープや水のサラダも代表作。
そのため、日本の情報発信の中心である東京にお店がある意義を大きく感じました(場所は南青山(最寄駅 青山一丁目)。
成澤シェフは石川県・北陸にも北陸新幹線が開業するずっと前から、食材探求に通ってくださっておりました。
SNS時代の今だからこそ、地方にあるディスティネーションレストランや食材の情報もシェフやフーディーらがキャッチしやすくなりましたが、成澤シェフは地方食材にフォーカスした先駆けで、自ら地方に出向いて山に入って食材探求をずっと行なってきました。
ダイニングアウト(DINING OUT、野外レストラン)の先駆者でもあり、成澤シェフを中心に、世界のトップシェフ15人が参加しての食の祭典「COOK IT RAW in ISHIKAWA」が開催されたのは2011年のこと。シェフらが野山や海を旅して、石川の食文化を体感し、料理に昇華させたイベントは革新的で料理会に衝撃を与えました。
見た目の美しさやアイデアだけのプレゼンテーションだけではない、その向こう側にある生産地の背景まで味付けとするため、心の奥まで響く説得力があるのだと感じます。
お献立には産地が記載されているので、その光景を思い浮かべながら食べ進めます。
ショープレートに置かれているのは漆の盃。
NARISAWAさんのコースの冒頭は”引盃(ひきさかずき)”でスタート。世界では”JAPAN”と呼ばれる、日本を代表する伝統工芸“漆”で儀式的に幕を開けます。手漉き和紙の白と朱塗りの盃は、日本国旗と同比率。
お酒はオール富山。
日本酒は「満寿泉」で知られる富山の蔵元「枡田酒造店」のみで、ワインは富山氷見の「SAYS FARM」のみです。完全にNARISAWAオリジナルで造ったものや、富山でも飲めないNARISAWA限定酒でペアリング構成されていてスペシャル感あり。ウルトラプラチナなるお酒も!
“特別なお酒”というだけではなく、何度も試食とペアリングを重ね、蔵元さんにも味わってもらってお酒を決めているそうです。
さらに特筆したいのは、サービス陣のレベルの高さ。
厨房との連携も取れていて素晴らしいし、世界レベルに鍛えられているんだなと思いました。
●森のパン 2010″・苔
NARISAWAに行ったら楽しみにしたいのがスペシャリテの一つ、目の前で仕上げる、白神山地の森の天然酵母を使用したパンです。
石川県加賀市三谷地区という場所で、「のぎくの会」さんが毎日NARISAWAさんのために採って送ってくれる山野草をしつらえてあります。山の景色がテーブルの上に。これは最初から感動的。
パン生地は湯煎で発酵が進み、目に見えない微生物の存在を再確認。石焼きにして仕上げてくれるという演出も素晴らしい。
これが本当に美味しくて、絶対おかわりしてしまうはず。
むっちりした食感を感じる度に自然な甘さが滲み出して口の中にほとばしる。混ぜ込まれている柑橘がアクセントになって、食べ出したら止まりません。
添えてくれるバターは苔玉を模して、ブラックオリーブとほうれん草の葉緑素を纏わせてあります。
●北海道 毛ガニ・イクラ 東京湯葉
まずは日本の海の豊かさを教えてくれるような一品から。毛蟹とイクラ、湯葉に奥井海生堂の昆布ジュレをかけて。
●山口 赤ムツ・京都 米
温かいお寿司をイメージした一品。
北陸の人は、金沢(野々市市)「太平寿し」さんののど黒蒸し寿司がパッと頭に浮かぶはず。
のど黒は身が厚くて、個体の大きさが切り身からも想像できます。じゅわっと滲み出すさっぱりと豊かな脂が、酢飯をコーティングして一体になります。
●京都 賀茂茄子
テーマは「祇園祭」。京都の賀茂茄子の焼き茄子にとろとろの焼きなすペーストを乗せ、さらにNARISAWAさんの裏庭で育てる美しいエディブルフラワーで彩られています。コーティングしている透明なシートはトマトのエキス。華やかさに趣漂う、なるほど祇園祭。
漆器を傷つけないようにカトラリーは木製。金沢の木地屋さんが作ったもので、金属のカトラリーとは力の入り方が違うので、形が計算されています。漆塗りは輪島の「藤八屋」塩士さん。
●神奈川県 アカザ海老、福井 そばがき
アカザ海老は新鮮だからこその跳ね返す弾力で、高知県のフルーツトマトを使用した鮮明で凝縮された味わいのソースが好相性。マイクロバジルの青い風味と。
福井県産のそば粉はニョッキのイメージで、練りたてのそばがきにそば粉を纏わせて揚げ、もちっとした食感に滋味がふんわり香る。
●愛知 ハモ・北海道 ウニ
小骨が多い鱧は骨切りをするのが一般的で、その包丁技術が問われるのが和食ですが、こちらはなんと小骨も全て1本1本丁寧に抜いた鱧なのです。骨の食感を全く感じずに、白身の美味しさだけを味わえることってありません。繊細でギュッと密度が高くて、昆布を食べている礼文島の雲丹と、天橋立の玉葱の濃厚な味わいにも負けない旨味です。
●“海岸の風景”
海の景色に港町の雰囲気も漂わせる、イカにパプリカのデグリネゾンを組み合わせた一品。
透明なソースはパプリカのエッセンスで、オレンジ色のソースはパプリカのペースト。さらに仕上げにかけてくれるのが、パプリカを真っ黒になるまで焼いて炭化させて、レモンとオリーブオイルを加え、液体窒素で凍らせたドレッシング。パプリカの濃淡のグラデーションが口の中に描かれ、イカの潮騒に重なる。
●愛知 ウナギ・鹿児島 奄美大島 マンゴー
遠火で白焼にした鰻は、タレのニュアンスを無農薬のマンゴーと喜界島の粗糖、鰻の骨をベースにしたソースで自然の甘さで構築してあります。
●山口 白甘ダイ・福岡 カラスミ
品格漂う白甘鯛の美味しさはまるで女王様のよう。レアな火入れも抜群でうっとりしてしまう。
平兵衛酢と青唐辛子の青い風味と辛味、満寿泉に漬け込んだ”酔っぱらいカラスミ”を削って旨味と塩気を添える。
●兵庫 神戸ビーフ
女王様の次は、キングの登場。ここまでに盛り上がった気持ちをさらにグッと上げてくれる、身を任せられる間違いなしのメイン。ズッキーニを小さいうちに採ったコロコロのベビーズッキーニも、ほくほくと美味しい。
●熊本 メロン
コンセプトは“大人のメロンソーダ”。大人が一瞬で童心に帰り、目が輝いてしまうデセール。こういう遊び心って良いですよね。器に詰まったドリーム。メロン果汁100%の泡をふんわり乗せて。
●福島 白桃
おもわず息を呑む美しさ。花びらのように桃を重ねてあり、崩してしまうのがもったいない。
成澤シェフのお父様から引き継ぐサバランであるというストーリーも“エモい”(エモーショナルな)一品。
舌に当たる絶妙な厚みのたおやかな桃。果肉が果汁に変わる瞬間に、サバランに優雅で可愛らしい甘さが加わる。
●福岡 八女茶・富山 最中
小菓子はモナカで、型までNARISAWAロゴという、最後の小菓子にまで手を抜かないこだわりにもう参りました。品のある香り高い八女茶のほろ苦さも余韻に残る。
レストランを後にしても、しばらく夢の世界に浸ったまま。
NARISAWA
東京都港区南青山2丁目6−15