長野県・野沢温泉村にある「Hotel Haus St. Anton(ホテル ハウスサンアントン)」にて、2026年8月17日に開催された、片桐健策シェフとミクソロジスト・西村和也さんによるポップアップに参加しました。


「野沢温泉って、冬だけの場所にしておくのはもったいない。」というのが正直な感想。
特に夏はもっともっと「食」で活性化され、それを目的に人が訪れるべき場所だと思います。
今回のポップアップは、野沢温泉という土地への愛をしっかり感じさせながら、攻めた組み合わせや新しい表現にも挑んでいる。とても意義のあるポップアップでした。

冬だけじゃない。夏の野沢温泉がいい
野沢温泉と聞いて、真っ先にスキーを思い浮かべる人は多いはずです。実際、野沢温泉は温泉とスキーを軸に村が発展してきた歴史があります。
だからこそ、スポーツを全くしない私からは縁遠かった。しかし、今回で一気に大好きな場所になりました。
「グリーンシーズン、めちゃくちゃいいじゃない!」
そして、野沢温泉の温泉街には、天然温泉の外湯が13か所点在しており、無料で入浴ができます。外湯は江戸時代から「湯仲間」という制度によって村の人々に守られています。温泉街を歩きながら外湯を巡ることが、大きな魅力。
またグリーンシーズンには、ゴンドラで上ノ平高原へ上がってブナの森を歩いたり、E-BIKEで里山を巡ったり、朝市を楽しんだり。星空観察のスターライトツアーも開催されることがあり、雪のない季節ならではの楽しみが充実しています。
さらに、冬のトップシーズンに比べると宿泊料金も抑えられている宿が多く、滞在しやすい。
スポーツをしない私にとって、野沢温泉へ行く大きな楽しみが「食」です。
温泉に入って、おいしいものを食べて、また温泉に入る。最高ですよ、この過ごし方。


ちなみに野沢温泉村の人口は、2026年8月1日現在で3,183人だそうです。
この小さな村が、冬になると国内外から多くの人を惹きつける世界的なスノーリゾートになるというのも、改めて考えるとすごいことです。
現在、村長を務めるのが上野雄大さん。
1981年5月25日、野沢温泉生まれの45歳。元スキーヤーとして大活躍した経歴あり!
お若い村長さんで、野沢温泉が持つ資源を見つめ直しながら、新しい発信や可能性を探っていらっしゃるご様子。大いに盛り上がりそうですね、野沢温泉村!

片桐健策シェフ × ミクソロジスト 西村和也 氏

今回のポップアップは、まさにその可能性を感じさせてくれるものでした。
今回料理を担当したのは、ハウスサンアントンの片桐健策シェフ。
全日本アルペンスキー選手権で2回の優勝という輝かしい経験を持つ、元アスリートです。競技の第一線で「良質な身体をつくる食」と向き合い続けた日々を経て、料理の道へ。身体を形づくる食事と、人を感動させるガストロノミーの表現。その両面を突き詰め、生まれ育った野沢温泉の山と水の恵みで、季節ごとの一皿を組み上げています。
そしてカクテルを担当したのが、BAR「TONE」のバーテンダー・ミクソロジスト、西村和也さん。
東京の外資系ホテルでバーテンダーとしてキャリアをスタート。カクテルコンペティション入賞を機に、銀座・金沢の新規ホテル開業プロジェクトへバーマネージャーとして参画し、2024年、野沢温泉村にカクテルバー「TONE」をオープンしました。信州のハーブや山菜、果実など、豊かな自然の恵みを取り入れたオリジナルカクテルを得意とし、クラシックカクテルの技法をベースに、地域の食材や文化から着想を得た一杯を提案しています。
生産者とのつながりや地域の風土を大切にしながら、野沢温泉ならではの魅力をカクテルという形で発信している方です。
今回のコースは、デザートを含めて4皿。それぞれに1種類ずつカクテルを合わせます。
品数を絞ったコースなので、お腹の具合もちょうど良かった。カクテルがかなり複雑に構築されていたのが印象的でした。
・二種の黒米チップス
やたら|ボタンコショウ|プラム|味噌漬け、信州サーモン|ルバーブ|ガリ
・とうもろこしの雫
最初から、信州の夏。
「やたら」は、北信地域で親しまれている夏のご飯のお供。そこにトマトのクリアウォーターの寒天を、はらりとのせます。信州サーモンはタルタルにして、ガリの甘酸っぱさと食感をアクセントに。
そして「とうもろこしの雫」は、ハウスサンアントンの夏のメニューのひとつ。水を加えずに調理されていて、これまで食べたとうもろこし料理の中で一番甘かった!とうもろこしそのものが持っている水分と甘みの強さに驚かされます。

(Cocktail)日本酒 水尾“弥生の絞り”、野沢ジン “クラシック リミテッド エディション”、自家製かりんシロップ、酸化発酵プラム、青柚子、カモミール
スッと通った花の香りがありながら、さまざまな発酵を重ねることで、味わいはかなり複雑。香りは軽やかなのに、飲み進めるほどにいろいろな要素が顔を出します。料理に使われた夏野菜のシャキシャキとした食感や青々しさともよく合い、最初の一皿から「料理+カクテル」でひとつの表現になっていました。

・蕎麦ガレット|糸魚川の天然鮎|胡瓜
個人的には、この鮎が印象に残ります。とってもおいしかった!釣ってすぐにヒレを取り、神経〆した天然鮎をコンフィにしてからロースト。鮎の香りと旨みがしっかりとありながら、甘いソースとの相性が抜群です。
そこに2種類のカットを施した胡瓜。口の中でカリッ、パリッと食感が弾け、その直後に胡瓜の爽やかさが広がります。それらを蕎麦を使ったヴィーガンガレットで巻いて。素朴な組み合わせでありながら、現代的でもある。

(Cocktail)ぼん白、パトロン シルバー、胡瓜、パインアップル、ライムリーフ、ディル、グレープフルーツ
料理の胡瓜が持つ青い風味に、カクテル側からも胡瓜を重ねます。そこへパインアップルの丸みのある甘さ。さらにテキーラのアガベ由来の風味で全体をキュッと引き締める。料理とカクテルに共通する「胡瓜」が橋渡しになりながら、鮎の余韻を爽やかに次へ運んでくれました。

・山古志和牛|ビーツ|アマゾンカカオ|キタアカリ
山古志和牛のイチボを炭火焼きに。ビーツはグラッセで。そこにアマゾンカカオを使った、複雑な風味を持つソースを合わせます。肉の力強さに、ビーツの土を思わせる風味、カカオの苦みや香ばしさ。甘い・苦い・香ばしい、そして大地を感じさせるようなニュアンスが重なり合います。

(Cocktail)きよかわウォッカ、ブランデー、ポートワイン、ビーツ、オレンジ、イチジクの葉、タイム
ビーツとポートワインで料理との接点をつくりながら、イチジクを漬け込んだウォッカでグッと深みと個性的な複雑さを加えています。単純に「肉だから赤ワイン」という発想ではなく、料理を構成する要素を拾いながら、一杯の中でもう一度別のニュアンスも発見できるペアリングでした。

・川中島白桃|幸水梨|パスティス|クランブル
白桃はコンポートに、梨はグラニテに。川中島白桃の豊かな甘みに、幸水梨のみずみずしさ。そこにパスティスの爽やかな甘い香りが加わります。果実のおいしさを素直に楽しませながら、最後にハーブやスパイスを思わせる香りが残る、大人っぽいデザートです。

(Cocktail)Me味醂、ドライシェリー、ホエイ、パスティス、マイヤーレモン
ベースになるのは、味醂の濃密なコク。ドライシェリーやホエイ、パスティス、マイヤーレモンを重ね、甘さだけでは終わらせない複雑な一杯です。デザートとカクテルの双方にパスティスを使うことで香りがつながり、最後まで「料理とカクテルを一緒に味わう」という今回のテーマが明確に伝わってきました。

「野沢温泉=スキー」だけではない、食という新しい目的が加われば、この村は一年を通してもっと面白いデスティネーションになるはず。今回のポップアップは、そんな野沢温泉のこれからの可能性まで感じさせてくれる一夜でした。

