「隼」東京 六本木|Toshi, Tokyo JAPAN

(訪問日 2020年6月14日)

長谷川稔グループの新業態である“ネクスト・ヌーベル・シノワ”「隼(とし)」。シェフは吉田隼之さん。
8席のカウンターは吉田劇場で、毎皿シェフのプレゼンテーションが入り、どのようにその美味しさを生み出しているのかをしっかり解説してくれます。さらに目の前で調理する臨場感は中国料理だけあって興奮度が高い。強い火力で一気に仕上げると客席までその熱が伝わるし、聴覚も刺激される。伝統と最先端、素材力とシェフの哲学、温度と音、香り、最後まで圧倒されながら楽しみました。個々の食材と向き合い、探求されているところも素晴らしい。

●漆黒
まずは木箱が登場。中からは丸いアッツアツの、タイトルそのもの漆黒のボールが登場。中には、ウニ、いぶりがっこなど。

●焼蒸
香港では最高級魚だそう、ハタ科の“スジアラ”という魚。宮古島で名人が水中ガンで獲ったものを空輸。フライパンで鱗焼きする際には、氷を押し当てながら保水性を持たせて焼く。スチームにすると鱗のパリッと感が損なわれるためこうしているそうです。さらに保水のパーセンテージなども逆算して調理。鱗のサクッ、蒸した身のふわっと感とレア感、この3段階のテクスチャーを楽しみながら。北海道菅原農園のハーブ、自家製のセミドライトマト、香港の熟成酢はシナモンや八角の香りと干し梅を移して寝かせる。奥行きあるコク、さらに酸味と風味が口の中で複雑なハーモニーを奏でる。

●golden crab
巻きたて、揚げたての春巻き。北海道産の毛蟹、ホワイトアスパラ、XOバターを綴じ込めて。

●濃いめ
メジロサメのフカヒレの登場。繊維が太くて驚きがあります。

フカヒレの表面をステーキのように香ばしく焼き上げ、その上からは、親鳥や雛鳥、鶏足のもみじなどで作った超濃厚なコラーゲンソースをかけます。これが本当に超濃厚。唇にグロスを塗ったようになるくらいで、タイトル通り“濃いめ”。麺のようなフカヒレの太さと、ソースの濃厚さを楽しむ一皿。

最後はソースにもち米を投入して余さずに。

●強火
シンプルだがこだわりの野菜炒め。調味料は、塩、胡椒を少し、ごま油、水溶き片栗粉を少しだけ。野菜一つ一つの個性に合わせて火入れの温度を変えて仕上げる。この料理だけはカウンター8名分は作らずに、4名4名で分けて作っていました。
肉や魚を入れずに仕上げ、野菜本来の甘みを味わう料理。油通しをするものも、さっとボイル。しょっぱいくらい塩を入れることで中に味を入れると同時に余計な油を落とす。さらに中にいた甘みが外に出ようとするのを、片栗粉でコーティング。シェフの狙い通り、野菜が持つ甘さが引き出されており美味でした。

●殷雷(いんらい)
雷という意味の一品。最中のパリパリが一つ目の雷。中には、香港のアヒルの丸焼きをプラムソースで和えたもの、フォアグラの紹興酒でマリネしてクリーム状にしたもの、そこに駄菓子のワタパチを思い出させるパチパチの飴が弾け、口の中から聴覚を刺激。スペイン産のキャンディーだそうです。

●爽
次のメインの前の、お口直しとしての一品。フレッシュの富山白えびを自家製のネギ油でマリネしたものに、青山椒の香り愛媛完熟レモンの果汁を落として。

●90℃
千葉房総の黒鮑。この厚み。育つのにかなりの年数を要することは簡単に想像できます。

昼まで生きていた鮑を、日高昆布、日本酒、紹興酒を使って、90℃で3時間スチーム。常温に戻し、ゆっくりと火を入れていく。さらに瞬間的に油通しをして、旨味を逃さないコーティング作業をする。その鮑を肝ソースで。肝ソースは、伊勢神宮奉納たまごの“和の極み”の卵黄を加えたもの。鮑はやわらかいというだけはなく、弾力を残してあり食べ応えがあります。

●30ヶ月熟成キタアカリ
土佐の赤牛にキタアカリを乗せて。主役は赤牛でなくキタアカリ。鮑の料理のタイミングで作り始めた出来立てのマッシュポテト。なめらかな舌触りを感じたあと、どっしり奥行きある甘さが広がる。

●-choice- たまご炒飯、上湯麺、カレーライス、焼ラーメン
お献立にはお食事が4種類並び、“choice”と書いてあるが、この中でどれかを選ぶのではなく、量を選んでほしいという意味で全種類出てきます。
しかもこれら1つ1つのこだわりがすごくて「参りました」という気持ちになります。最後まで手抜きなし。全解説は控えますが、特にカレーはシェフが全身全霊をかけて作ったそうで手間も一番かかっている。淡路の玉ねぎを使用し無水で調理。スパイスから全てにこだわったというだけあって衝撃のうまさ。

●口福
デザートは2種類。杏仁粉からでなく最初から作った杏仁豆腐にツバメの巣をシロップ漬けしたものを添えて。

最後は一口の生チョコケーキ。小麦粉を使用しないケーキで、下の層はタロイモケーキ、上の層は生チョコのケーキで紹興酒で香り付け。