(訪問日 2021年5月11日)
お竈さんの御飯と“摘草料理”で知られる京都の名店。野草は店主の中東久雄さんが京都の大原で採集しています。
料理には、移ろう季節感や野山の息づかいが感じられ、さらに野草へのシゴトが美しく丁寧で、ネガティブに働く味は取り払いつつも、それぞれの個性や野趣はしっかり感じさせていて、1つ1つの食材特性を熟知されているのが伝わります。
食べるとなんだか細胞から体がピンピン元気になってくる。医食同源。
また、スペシャリテのメザシやお竈さんの御飯といった日本人のDNAが反応するシンプルで奥深い料理はもちろんのこと、クリエーティビティー溢れる料理にも驚きがあります。中東大将の独自の世界感が楽しい。
なかひがしさんを特別な一店にされている方は多くいらっしゃいます。高級食材を使っているわけではないのに、これだけ食べ手の心を掴むのは凄いことですね。私もファンになりました。
店前には、“端午のお節句”の鯉のぼりの暖簾がかかっていました。
女将さんの帯も鯉。
特に今回は野草が豊富な時期の訪問。野草では、特にイタドリをここまで使われる料理人さんはいないのではないかと思いました。私も田舎育ちなので、生えているところはよく目にしましたが、食べた記憶はあまりないかも。
●前菜
菖蒲とヨモギを添えた、端午のお節句を表現した前菜。竹皮とギボウシの葉を敷いて。
生春巻きは5月の母の日の花束。野生のカラシナ、クレソン、タンポポ、カラスノエンドウなどと、イノシシの燻製をライスペーパーで巻いて。イタドリの穂先を鯉のぼりのセンターポールに見立てて、ごまめ(カタクチイワシ)を泳がせて。タラの芽味噌漬け、セリと唐辛子の葉の煮びたし、粽の鯖すし、イチョウの葉、いちご、他。
●ウルイ、コゴミ
不思議な器は耳杯(じはい)。ウルイは削った干肉で旨味を添え、コゴミには黒胡麻でキリッとした風味を添えて。お出汁はシャケ節。
●お吸い物
吸地は白味噌仕立て。新玉ねぎ、玉ねぎの葉、九条ネギのねぎ坊主で構成してあり、身近な食材の新しい角度での美しさや表情を見せるところに感動を置いていました。ねぎ坊主がヒラヒラと妖精の羽のように美しい。新玉ねぎの甘さに白味噌が相性良し。
●岩魚
1時間かけてじっくりと焼き上げた岩魚の塩焼きに、岩魚の骨酒を注いで。ほくほくとほどける身の美味しさに、骨酒の温かでふくよかな味わいが調和し広がりが増す。岩魚の中骨で「鯉の滝昇り」の躍動感を表現。蛇腹胡瓜には30年前のもろみ、じゅんさい。
●ワラビ、鯉
ワラビの海苔巻き、3ヶ月綺麗な水で泳がせた鯉。イタドリの茎を矢車に見立てて。
●煮えばな
ちょうど煮えばながいい状態のときに、コースに挟んでくれます。お米は山形県川西町の高橋さんが育てる“つやひめ”。みずみずしいアルデンテの美味しさよ。
●煮物椀
お造りの鯉とはガラリと表情を変えた鮎。鯉煎餅の香ばしさと旨みが溶け合わせた煮物椀。コゴミを葛で寄せるようにすることで、葛のとろみと共に滋味が滑り込んでくる。赤コゴミ、鯉の鱗、柚子の花、香茸という組み合わせも飛び抜けてる。
●鯖熟鮓2年もの、夏大根と冬大根の花を添えて
●焚き合わせ
ハチク、山フキのささがき、琵琶湖の鮎、イタドリ、絹さや
●隠岐島の牡蠣
トマトソースに見えるのは金時人参のペーストで、人参と言われなければ、酸味のない濃いトマトのような感じです。小浜のワカメ、田中とうがらし、ねぎ、ジャバラ。
●北海道 野生アンガス牛
野生のアンガス牛はピュアな味わいで、ややワイルドな食感あり。タラの芽の白味噌ソースの健やかな風味と力強さで、豊かな自然の中でのびのび育つアンガス牛が思い浮びました。カチョカバロ、山椒。
●ブロッコリー、ワラビ、新玉ねぎ
●お食事、スペシャリテのメザシ
メザシはなかひがしのメインディッシュ。メザシ一尾というこの清々しさ、懐かしみ、日本人の心が反応するご馳走。器に描かれているのは鰯雲で、“空飛ぶメザシ”の愛称でも呼ばれています。ちなみにこのメザシは氷見の鰯なのだそうですよ。
まずは炊き立ての白い御飯でメザシを頂きます。泣ける美味しさとはこのことで、ホロリとくる苦味と共にホロリと涙がこぼれそう。ああ、清い美味しさ。
北海道2年熟成じゃがいものポテトサラダ、山独活の葉とホトケノザ、香の物
食べ終えたら、器にマルドンの塩と山椒オイルを添えてくれて、そこにお代わりとして頂くおこげを付けて食べます。これもまた絶品。パリパリと乾いた食感と共に弾ける香ばしさに山椒の風味が乗る。
さらにお代わりは「YCTKG」。山芋、カラスミ(キャラスミ)、たまご・かけ・ごはん。御飯に卵黄が絡み、カラスミの塩気と粉醤油がいい塩梅で箸を進めます。
●デザート
イチゴと胡麻豆腐のシャーベット、八朔、マーマレードの組み合わせ。ギボウシの葉っぱを敷いて。
食後の水出しコーヒーは、空気を含ませながら注いでくれます。お茶菓子には古代チーズ“蘇”。