「エタデスプリ」沖縄 宮古島|Restaurant État d’esprit, Miyakojima Okinawa

(訪問日 2020年12月6日)

「100年後に繋がる料理」を掲げた宮古島にあるイノベーティブレストラン。2020年に行ったお店の中で最もプレゼンテーション力が高いと思ったお店です。
同店は、「紺碧ザ・ヴィラオールスイート」内にあるレストランなので、宿泊にてディナーを頂くことになります。


宮古島から伊良部大橋を渡って伊良部島へ。島内はレンタカーでの移動が良いと思います。

エタデスプリは、地元出身の渡真利泰洋シェフが“琉球ガストロノミー”に本気で取り組んでいます。1品1品のメッセージ性が強く、沖縄のことを教えてくれたし、もっと深く知りたくなりました。伝統料理の再構築が数々あり、メニューには呪文のような料理名が並びます。
特筆したいのはチーム力の素晴らしさで、毎皿のタイミングや解説も素晴らしかった。

まずはメニューにない2品から。1つ目のアミューズは「そばのパン」。宮古島にはサトウキビ畑が広がるが、課題として農薬問題もあり、土壌や水質のバランスを取るためにはソバの畑を作ることが有効であるということで、まずは“失われそうな食材を守る”というアプローチから。器の“割れ”も環境破壊を意味する。

そばのパンにアーサのクリームチーズと海ぶどうを乗せて。


2品目は「油カス」という名前の豚の皮を揚げたもので、沖縄の人たちには親しみのあるスナック。魚卵を使ったクリームと間引き野菜を添えて。

●オトーリ
“オトーリ”とは、琉球王朝時代から宮古島に伝わる酒宴の風習のこと。
テーブルには燻製した丸一匹の漆黒の海蛇が登場。鰹が獲れなかった頃に、鰹節と同じようなニュアンスの風味があることで使われたそうです。

まずはその海蛇の出汁と豚足と酒粕を合わせたふくよかな旨味の飲み物でシェフと乾杯。
かけ声は「ぬまだーうらいん」。宮古の言葉で「飲まずにはいられない」という意味だそうです。

●マンジュウ
マンジュウとは沖縄でパパイヤのこと。パパイヤと鶏レバームースのフィンガーフードをワンバイトで食べたトロピカルかつ重厚な余韻で、スプーンに乗った白く丸い粒を口に。これが液体を内包しておりペアリングとなります。泡盛と練乳、ヨーグルトとはちみつを用いたミルキーで酸味あるワンショット。


●ニゴー、トウフヨウ
琉球王朝時代の前菜を現代風に置き換えた2品。
ニゴーとはシャコ貝のこと。ヴィーナスが登場しそうな美しい貝殻の中はトウフヨウのエッセンスでマリネしたフレッシュのシャコ貝。レホール、ナスタチウムと。
“びんがた”と呼ばれる染物の箱の中にはトウフヨウの料理が。トウフヨウは癖が強いが、カカオバターでコーティングしてビターな風味で昇華させる。

●スンビューカニ
いわゆるケジャン、酔っ払いガニのシェフバージョン。“スンビュー”とは泥酔という意味。
ジュゴンが住んでいたと言われる美しい宮古島を取り戻そうと、宮古島でマングローブガニを養殖する「蟹蔵」さんのカニ。泡盛と島らっきょうや島ネギで漬けてありエスニックな味わい。美味。

●アパラギトゥイ
“アパラギトゥイ”とは美しい鳥という意味で、これは孔雀の料理。美しいが繁殖して生態系を壊してしまう孔雀。駆除するからには、大切な命を価値のあるものにし、”食財”として美味しく感動させるものにしたいという思いを込めた一品。孔雀の身と骨から取った出汁を素麺と。


・パン
貝塚時代から作られるどんぐりパンは滋味があっておいしい。ヘーゼルナッツオイル、レモングラス練り込んだバターが香り高い。


●チャンプルー
エタデスプリ風チャンプルー。サービスの方が東南アジアで良く見られる笠を被って登場。宮古では畑のことを“パリ”と言い、畑で働く女性を言葉遊びで“パリジェンヌ”と呼ぶそうだ。なるほど。
宮古の畑を表した一品。鰹の酒盗の温かいソースをかけて。

・ゴーヤーチャンプルー味のビール

●オーバンマイ
大盤振る舞いの意味。旧暦の5月に伊良部島の港で鰹の収穫を祝うお祭りがあり、漁師さんが船から住民にぶつ切りにした鰹を気前よく投げる風習があるそうだ。

●ゲンナー
ゲンナーはナンヨウブダイのこと。北陸の私にはびっくりの鮮やかなブルーの魚。

自分で出した膜を被って寝るという変わった習性のあるゲンナーは、皮が厚くブヨブヨしているので、予め皮を剥いで、コラーゲンを分離させて身と再構築。皮はパリパリとクリスピー状で、身は水分を保った火入れ。透明なソースをかけるとイカスミが広がり、お皿に夜の海が表現される。

●ミヌダル
宮廷料理の一つ。豚肉に黒ごまを塗った料理で、真っ黒な黒胡麻のタレで覆われている見た目が“ミヌ”蓑(みの)を連想させることが由来。ミヌダルを現代風に再現。泡盛で漬けた豚バラ肉を蒸したものを、黒ごまのペーストとセルバチコのペーストに付けて。

●シュクサイ ヌ ピンザ
ローカルな食文化の象徴であるヤギと伊良部島のスッポンの料理が3品。
ヤギはシンプルに炭火焼きにし、スパイスと黒麹のピュレで。月桃(げっとう)の葉で包んだムーチー、中身はもち米とスッポンとヤギの肉。




●ミャーク ヌ ヌヌ
着物の布、宮地上布をモチーフにしたデセール。まずは宮古上布のプレゼンテーションから。宮古上布は苧麻(ちょま)という植物からミミガイの殻を使って繊維を取り出し、糸の細さにして、機織りをする。一着作るのに数年かかるそうだ。作り手が減少しているので、このままではなくなってしまうのではないかという文化遺産。100年先を考えるデセール。島とうふ、泡盛のアイスクリーム、黒豆。


●オリオンビール
最後は沖縄と言えばのオリオンビールをイメージしたデセールで締め。

チビビールでシェフらとの乾杯もあり、ゲストの盛り上がりも最高潮でのフィニッシュ。
コースの流れ、抑揚も素晴らしかったです。