ひがし茶屋街エリア、オーベルジュ“薪の音 東山”の敷地内(入り口は別)にある日本料理店。オープンしたのは2018年3月です。店主の今井友和さんは「嗜季」元料理長。今井大将の料理のファンは多く私もその一人。料理は月ごとのおまかせコース。特徴的なのは、スモールポーションで皿数が多く、小さな器の中には季節感が溢れ、今井さんならではの味の組み立てにセンスが光ります。盛り込みや八寸などを織り込む華やかな日本料理とも、素材を立てて研ぎ澄ませた日本料理とも違い、手法は全て和だが、食材の組み合わせが多様で、どことなくイノベーティブのような印象も受けます。風味や食感の演出など一つ一つに細かい工夫が凝らされているので、食べ進めながら発見が多い。また、ジャスト旬の食材をかなり種類豊富に取り入れてあるので、ここに来ると毎度季節の味覚が網羅できるのが嬉しい。よくぞ毎月このお献立を組めるなぁと、毎月楽しみでありながら頭が下がります。しかも価格は手頃。ディナーコースは3段階あり、私はいつも真ん中の1万円コースを選んでいます。
場所は東山の裏手になりますが薪の音さんを目指せば迷うことはありません。ただ、入り口は狭いのでお見逃しなく。通りから見える暖簾をくぐってさらに細い通路を奥に進んで行きます。
ちょっと冒険心を掻き立ててくれるこの感じ、たまらなく好きです。ドキドキ。
扉を開けて中に入ると、黒を基調としたシックなカウンターに迎えられます。
席間に余裕があって大人な空間ですね。壁側のテーブル席は大きな窓になっておりお庭が臨めます。自然光も取り込まれていて開放感あり、和の趣も漂います。以前のお店は2階席もありましたが、ここはワンフロアなので、目の前で料理が仕上がっていくライブ感をどの席からでも楽しめるのがいいですね。
【紹介項目】
(最終訪問 2020年5月30日)
※品数多いので各回解説控えめになってます。
2020年5月30日
春の営業が出来なかったので半年ぶりということになります。(しかしながらテイクアウトのお弁当購入で4月に訪問。今井大将のお弁当がすごくて話題になっていました。いつものコースそのままと言える繊細な料理を詰め込んだお弁当でした。)
今回の季節食材は、水茄子、加賀太きゅうり、ガスエビ、山ウド、鮑、アスパラ、鳥貝、かたは、甘鯛、柏の葉、稚鮎、ヤングコーン、鱒、能登牛と野三つ葉、とうもろこしと鰻、鬼灯、蓬など。
今が旬の七尾の鳥貝は炭火で。炭火と言っても輻射熱ではなく、幻想的に赤々と燃える炭に直にのせ、軽く焦がし香ばしさを添える。今井大将がよくやる手法。
さらにはしりの稚鮎が食べられて心踊りました。ヤングコーンのヒゲと粒をとろみ出汁に加える。鮎のサクサク弾ける食感に立つ淡い苦味と香ばしさ、初夏を思わせるコーンの香りで頂きます。能登牛はやや厚切りを絶妙な具合いのしゃぶしゃぶにして野三つ葉に巻き野趣をアクセントに。
2019年12月8日
前回からちょうど1ヶ月での訪問。この季節の食材というと、カニをはじめ鰤や牡蠣など、1ヶ月前とあまり変化がないわけですが、料理がお食事のカニご飯以外の料理11皿は全て新作で驚きがありました。今井さんのアイディアの引き出しの多さにびっくり。使用食材は、白子、海老芋、なまこ、なめこ、香箱ガニ、ズワイガニ、ブリ、カワハギ、牡蠣、鴨、金柑、柚子など。お食事のカニご飯は、加能ガニに香箱ガニも加わりパワーアップしていました。
2019年11月7日
昨日11月6日に石川県はカニ解禁で、加能ガニ・香箱ガニ共に水揚げがスタートしました。初日は豊漁で金沢は活気に溢れる中、「カニ食べられるかなー」と期待を携えて訪問。さすが今井さんらしい、とても心踊るカニのお料理をお献立に取り入れてありました。香箱ガニは足と内子外子、そして子持ちの甘海老と合わせてジュレがけにしてシャリにのせておすしのようにして。さらに加能ガニはお食事として提供。単にカニごはんというのではなく、一番ほわほわになっているとろんとした舌触りのカニを菊と共に混ぜ込んであり、苦味のアクセントが良いシゴトをしていました。これは絶品でした。
また、この月の食材は、なめこ、沢野ごぼう、なまこ、クエ、白子、牡蠣、柿、源助大根、じねんじょ、菊など。カニが主役食材ではあるものの、他のお料理もそれは素晴らしいものでした。レンコンのお料理やりんごデセールはデグリネゾンで組み立ててありました。りんごはプリン、ジュレ、チップスなど何層かにしてあったのですが、黒酢と黒糖の蜜が素晴らしく、りんごの酸味、黒糖のコク、両方とマッチングさせて第三の味を作り出すのはお見事。こんな黒酢の使い方があるんだなぁと勉強になりました。
2019年9月25日
菊、アワビ茸、柿、丸十さつまいも、銀杏、松茸、秋刀魚、戻鰹、毛蟹、蓮根、イチジク、子持鮎、ヘタ紫茄子、里芋、栗、鮭いくら、巨峰など、秋の食材がふんだん。しつらえも秋の演出を毎皿に。最初の先付は3皿構成で、個人的に菊のおひたしの品のあるお味と美しさが好きでした。丸十さつまいもは焼き芋に再構築。焼印でスマイルフェイスの銀杏も可愛らしい。のど黒は松茸と共にお椀に。秋刀魚は今年は不漁ということでなかなか食べられずにいましたが、ここで食べられるなんて嬉しいことでした。肝醤油で。毛蟹は身をシャリに混ぜてウニと自家製のりでおすしに。蓮根はフライにしてフォアグラと合わせる。能登牛がとってもやわらかく風味豊かだったのですが、棒茶で煮てあるそう。お食事は新いくらと鮭。最初から終わりまで秋づくしで、すっかり秋を楽しませてもらいました。
日本酒は、獅子の里の秋あがり「絆」、「勝駒」純米吟醸、黒龍 大吟醸「しずく」、輪島の「白菊」という銘酒フラッシュ!
2019年6月25日
毎回も今井さんのセンスが炸裂していて楽しいのなんのって。
●青梅甘露煮、山椒のシャーベット
山椒の爽やかなジャパニーズハーブの香りが、火照った体をクールダウンしてくれる。青梅の青い風味がマッチ。
●トウモロコシ
梅雨と初夏を感じさせる2皿。ピュアホワイトのすりながしは、出汁とピュアホワイトのみで、文字通りピュアでホワイトな味が出汁にのっていて、ミルキーな甘さがダイレクトに伝わります。ジュレはピュアホワイトの芯の部分で取ったエキスなのですが、かなり味がしっかり出ており、味わいに濃淡を感じます。緑のは紫蘇オイル。
お花を散らしたお皿は紫陽花をイメージ。中は赤イカとズッキーニ。
●鱧
鱧の骨切りを目の前で見せてくれました。鱧落としは冷水で締めないで、口当たりほわほわっとした状態で。金時草、梅、フルーツトマト。
奥の器は、野生姜に鱧を巻いて揚げた香ばしいのを上品な鱧出汁で。鱧の同部位の違った美味しさを堪能。
●ハマグリのお椀
白濁した吸地が美味しそうだこと。ハマグリと焼き茄子、そして自家製の焼き海苔をのせて。磯の香がふわーっと口の中に舞い、能登の外海の荒々しさが目に浮かんだ。ハマグリの出汁は見た目以上に濃厚で胃からとくとくと体に染み込む感じがした。
●太刀魚
太刀魚の皮目を炭で直に炙ります。目の前で焼き目を付けるのを見て、胃袋がそわそわしてくる。白瓜、さらにらっきょうを薬味のように使うのが、なんだか今井さんらしいなぁと思った。(時折今井さんが使う黒にんにくも、一見個性の強い食材だが、うまく組み合わせて新しい味のアプローチにするのがうまい。)
●すし
器に入ったおすし。まずは昆布を手で割ってまぶして。酢飯の上には地のシマエビ、オクラにウニ。ねっとりくる甘〜い味わいに、昆布のパリパリ乾いた音が口の中に響く。
●毛ガニの茶碗蒸し
毛ガニたっぷりのあんを茶碗蒸しにかけて。あんには白味噌で甘さを加えてあって横幅のある味わいに。そのとろとろと濃厚なあんがふるふる繊細な茶碗蒸しに溶け合う。
●鮎
ピンピン跳ねる生きた鮎を目の前で串打ちして炭火焼に。頭はカリッと中はふっくら、ヒレは焦がさずサクサクのいい焼き加減だ。泡にしたタデ酢、甘長唐辛子。
●夏牡蠣
牡蠣は桜チップも加えた藁焼きに。鬼おろしにいぶりがっこのみじん切りを加えその燻製香を藁焼きに調和させる。牡蠣には牡蠣の味がするというオイスターリーフというハーブをのせて。本当に牡蠣そのものの味がして驚きだった。まさに牡蠣。海の味がした。
●能登牛
能登牛のサーロインを軽い煮付けで賀茂茄子を添えて、味の引き締めに実山椒。
●茶豆ごはん
この香ばしさったらたまらない。満腹でも何倍でも食べられる美味しさよ。
●黒文字デザート
黒文字のミルクシャーベットに黒文字の香りを移したゼリー、小夏を添えて。
黒文字そのままの風味をまずは知ってもらうために、黒文字の枝を添えてあります。パキッと割ると、黒文字の爽やかなハーブのような風味が鮮烈に感じられます。
小松の松葉屋さんの胡桃入り蒸しようかんとお薄を頂いてラスト。蒸しようかんのむっちりした食感と胡桃の滋味がまたいいお味です。
頂いた日本酒はこちら、
2019年3月27日
山菜や春のお魚など、どのお皿にも春を感じさせる演出が必ずあり、このディナーで2019年の春をお腹いっぱい堪能させてもらった気持ちです。
●ガスエビ、タラの芽、コシアブラ、ウルイ
●うすい豆の揚げ湯葉サンド、鱒寿司
揚げ湯葉にサンドされているのは揚げうすい豆やペースト状のうすい豆、そしてスイスのチーズ。鱒の寿司は笹の葉ではなく桜の葉で巻いて、口の中に春の香り舞う。
●鯛のお椀
今井さんらしいお椀。椀種の鯛は2種類。オスの鯛は焼きで、メスの鯛は生で出汁にくぐらせてしゃぶしゃぶのようにして。コゴミ、ウドの剣、五色のにしきごまをあしらって。
●細魚昆布締め、セリ
●柳鰆
柳鰆は軽く“漬け”にしたものを桜チップと共に藁焼きに。こういうところがニクい。さすがだ。スモーキーフレーバーに春を重ねます。鬼おろしと春キャベツをのせて。
●蛤の菜の花茶碗蒸し
蓋を外すとパッと目に飛び込んでくる春の色。その下には蛤ごろごろ。さらに蛤のお出汁もしっかり効いているのですが、黒胡椒が味わいを引き締めるという着地まで計算されています。
●中島の牡蠣
牡蠣の上殻を外して「わぁ」。ひたひたとおいしいエキスが滲み出る、いい具合の蒸し牡蠣。あさつきの新芽“ひろっこ”、そら豆、行者ニンニクを添えて。日本酒が進む。
●ホタルイカ
目の前で石焼きにしてくれたホタルイカ。鼻孔をくすぐる香ばしさ、そしてギュッと閉じ込められた旨味。赤イカのお刺身、カブラ、ホワイトアスパラと共に。
●白髪そうめん
「箸休めに」と出してくれた白髪そうめんは本当に細く細く舌触りが繊細。なんでも茹で時間も数秒ほど。ピチピチさわさわ口の中で跳ねて遊びます。蕗の薹の天ぷら、カラスミをのせて。
●能登牛と筍
ホクホクと若い筍のおいしさよ。しかも能登牛のラードでコンフィにしたというから驚きです。これも今井さんらしさ炸裂の一皿で、美味しさがずっと余韻に残っています。
●イイダコご飯
ここにもひと技。イイダコごろごろの炊き込みご飯、春らしく嬉しくなります。味を引き締めるのは葉ごぼう。春の苦味と品の良いミネラル感がイイダコに寄り添い引き立てています。
●甘味
モモイチゴとそのシャーベットに黒糖ゼリー、アングレーズソース。
2018年4月16日
●先付3品
・ホワイトアスパラ、ポーチドエッグ、桜エビ、春蘭
国産のホワイトアスパラの甘くやわらかで儚い味わいと春蘭の凛々しい味わいを卵黄をソースにして。最初から心掴まれます。
・新タマネギのすりながし
エディブルフラワーがのっているお皿です。新タマネギの自然な甘さがとくとくと訴えかけてくる。
・庄川の鮎
あぁ嬉しいはしりの鮎。海苔を巻いて磯辺揚げに。出汁には野三つ葉、たらの芽、サクラソウ。
●大蛤の真薯
白濁した吸地を見て分かるとおり、蛤の濃厚ないいお出汁が出ており美味。目を閉じて永遠に浸っていたい。真薯には蛤の食感を残してあるのもニクイ。余韻に残るそこはかとない甘味。
●藁焼き初鰹
●桜鯛
桜鯛の下のそうめんを煮凝りの出汁に絡めて。針にした生山葵の醤油漬けを桜鯛にのせて。
●ホタルイカ
自分で出汁をかけて蓋をして10秒。こういう演出を取り入れてくれるところもさすが。軽く熱が入ってぷりっといい食感に。カンゾウ、行者ニンニク、新生姜と一緒に。
●雲丹手巻き
雲丹のおすしは海苔を自分で巻くようにしてガブリ。軽く昆布締めしたガスエビが挟んであって甘さに厚みが増しています。
●ヤナギザワラ
ヤナギザワラは炭火焼にて、ジャストキュイッソン。熟成黒ニンニク使いがいつもお上手だこと。うすい豆のソースが趣きを添えています。
●タケノコ、能登牛
赤土タケノコはアク抜きしなくてもおいしい新鮮なものを。雅な薄甘さと優しい渋味がまたいい味付けに。能登牛サーロインに花山椒を合わせ清涼感で油っ気がさっぱり。メロン農家さんのトマトと食用ほおずきを添えて。
●鱒と空豆のごはん
蓋を外して思わず「ヒャー」と声をあげたくなるご飯。見た目からもうおいしさが伝わってきます。鱒はもちろん、空豆の個性的な青い香りを味方につけた、目尻のさがるうまさ。新キャベツの汁と共に。
●デザート
八朔に池月の酒粕を使ったブランマンジェを合わせて、大人なおいしさ。