富山を代表する日本料理店。同店は2019年8月13日に、富山の五福からここ岩瀬に移転オープンしました。富山の岩瀬はかつて北前船で栄えた港町で、銘酒“満寿泉”の酒蔵「桝田酒造店」さんがある場所として有名。その桝田酒造店さんがこの岩瀬を盛り上げたいと街づくりをされ、名レストランや作家さんが集まってきており、これからますます注目のエリアです。ちなみに店主の藤井寛徳さんは、金沢では「銭屋」さんで修行、京都では祇園の「味舌(ました)」さんにいらっしゃいました。
藤井さんのお料理は店主の人柄そのものと言える誠実さと丁寧さが溢れ出ていてファンが多いのですが、移転されて凄みが増し、店主も意気揚々とされており、食べ手側もとても楽しい。空間や調度品、器も料理もお酒も、何から何まで藤井さんのこだわりが詰まっていて、料理も突き抜けていたし。特に良いと思ったのがカウンター。藤井さんの手元が全部見える造りで、客席の手元もパッと明るくなり、繊細な日本料理の美しさや器の濃淡や艶まで、良さを全部受け止められます。そして、岩瀬漁港、四方(よかた)漁港、新湊漁港、生地(いくじ)漁港、氷見漁港、滑川漁港、魚津漁港などからあがった地物の鮮魚をはじめ、野菜や肉も地元産を使っているところがいいですね。ここに来た甲斐があるというものです。正直金沢から岩瀬に来るのはアクセス不便なので大変なのですが、季節ごとに通いたいと思う。
建物は門構えからとても立派で、暖簾をくぐる緊張感があります。お庭も内装もカウンターも全てがスケール大きくて空間遣いに余裕あり。何度も「すごいすごい」を連発してしまう。ちなみに、ふじ居さんは隣接する満寿泉さんの立派なお屋敷(試飲スペース)と隣接しています。
同店の建物は元々は廻船問屋さんのもので、建て替えをしてありますが、お庭は元からあったもので石や木を整えて仕上げたそうです。日本海の荒波をイメージした迫力あるお庭で、カウンターからそれを眺めることができます。席は7席のカウンターの他にお座敷あり、接待などにも良さそう。
カウンターの木材はラオスヒノキ。ちなみに炭も同木材。分厚いまな板は雄の銀杏。天井は窓側は日光杉で、客席側は御嶽神社の杉というこだわりです。
お酒はもちろん満寿泉で。さすが多種ラインナップされているのが嬉しい。
酒器は、富山のガラス作家 安田泰三(やすだたいぞう)さんの作品から選べるのですが、これがまたすごい。大きな木箱を開けたら、キラキラ眩くいろんな色合いのガラスの盃がズラリとラインナップされていて心踊ります。サイズは結構大振りですね。漆黒のは漆塗りに金箔と思いきやこちらもガラス作品です。
●プラチナ搾り
徳利は永楽善五郎造の黄交趾(きこうち)内銀張で、花唐草文様が描かれています。パステルカラーの黄色が映えますが高貴な面持ちで重厚感あります。
●「R」“KIMOTO 純米大吟醸” 生 (雄町)
●8888 リンク
シーバスリーガルの樽で貯蔵した樽香の効いた酒。満寿泉さんと8888kmの距離を超えて出会い、人と伝統の連鎖(リンク)したことを表しこの名前がつけられています。
ちなみに、やわらぎ水も満寿泉の仕込水で準備してくれます。
【紹介項目】
(最終訪問 2020年12月20日)
2020年12月20日 冬 氷見寒ブリ食べ比べ、甲箱蟹ケジャン、熊の手
(料理の順番は前後して書いています。)
今回の主役は氷見の天然寒鰤です。なんと13.5キロの立派な氷見寒鰤が登場して大興奮。富山の冬の王様、堂々たる登場です。近くで見るととても迫力があります。頭の付いた状態から大将が目の前で捌くデモンストレーションを行い、部位ごとに食べ比べをさせてくれました。腕があってこその実演です。これはすごい。
1本の寒鰤があっという間に柵に。お見事でした。
●天然氷見鰤 中トロ、大トロ、砂ずり、カマ 器は二代須田菁華
こんな贅沢な食べ方は初めてですし、味の違いが明確で、なるほどなるほどと頷きながら食べ進めました。
●天然氷見鰤血合い、しゃぶしゃぶ
さらに血合いは太白胡麻油で。血抜きがしっかりしているからこその美味しさで嫌なニュアンスはなく、まるでハツのような味わいでした。砂ずりの薄膜の先の部分はしゃぶしゃぶとして。
●天然氷見鰤カマ炭火の塩焼き
●甲箱蟹、銀シャリ
前回(11月13日)も出してくれたこの時期の大好きな料理。甲箱蟹をケジャンのように醤油などの調味料で漬け込んだものですが、味の着地は和に仕上げてあります。準備してくれた炊きたての銀シャリが進む進む。
カニ足と内子のとろとろ、外子の弾ける食感。噛むほどに広がる重厚な妙味に酔いしれます。
●月ノ輪熊
まさかの熊の手が登場して喜びが重なります。富山の山手、大長谷の月ノ輪熊の手(右手)を煮込みとして。とろとろ絶品のゼラチン、美味し過ぎて言葉がありません。
●岩瀬白子 柚子釜
●蕪みぞれ仕立て 岩瀬の甘鯛と婦中の音川かぶら
●八寸
七尾ナマコ酢、鳥松風焼、魚すり身カステラ、八尾モナカに大和芋ととんぶり、エノキとジャコを炒めた京都のおばんざい、生麩チーズはさみ焼
●あんぽ柿 紅白なますとして
●上市の里芋 器は永樂妙全
●年越し蕎麦
●プラチナアイス 満寿泉のプラチナの酒粕で作ったアイスクリーム
●和菓子 地元の紫芋を茶巾にして。ブランデーで大人の風味。
2020年11月13日 晩秋 甲箱蟹ケジャン、ブリ、松茸
8回目の訪問。前回からちょうど3ヶ月ぶりとなったふじ居さん。季節もガラリと代わり、秋が深まって冬のにおいもしてくる頃です。11月6日にカニ漁が解禁となったので、香箱ガニも楽しみに訪れました。
●玄猪 飯蒸し
もち米に生クチコを射込んでとろろ昆布をまぶした“亥の子餅”で幕開け。こういうタイプの亥の子餅は初めて。輪郭のあるもち米を咀嚼するとじんわりと甘さが出てきます。ふわっとした昆布ととろとろとした生クチコの絶妙な塩気と。
●蕪 蟹しんじょう
藤井大将の吸地はしばし目を閉じて浸りたくなる美味しさ。とくとくと広がるまろみが、舌にとろんと滑り込んでくるような繊細なカニしんじょうに溶け合います。
●お造り
生地(いくじ)の活ヤリイカ。今にも泳ぎだしそうな透明感のある活ヤリイカを、手際よく目の前で捌いてお造りにしてくれました。
今朝上がったアオリイカとの食べ比べで。器は須田菁華さん。
なんといってもピンピンと張ったヤリイカの歯ごたえが格別。エンペラ部位のコリコリも美味。とても贅沢な食べ方。
●氷見ブリ
11キロ越えのブリの砂ずりと大トロをお造りで。熟成ではなく、ここに来てこそ食べられるフレッシュなブリの最上の美味しさを教えてもらいました。パンパンに張った砂ずりのサクサクとした歯ごたえと、フレッシュながらしっかり感じる旨さ。富山のブリのポテンシャルの高さよ。器は五代目楽家五代宗入で。
●珠洲松茸 味噌漬け
箸休めとして。味噌漬けすることによって香りもグッと増し、シャクシャクした歯ごたえを感じるたびに重厚な味わいが広がります。何気なく出してくれたが絶品。
●砂ずりしゃぶしゃぶ
こちらも箸休めとして、お刺身で頂いた砂ずりに近い部位をしゃぶしゃぶで出してくれました。脂っ気を取り払うポン酢でさっぱり。
●甲箱蟹
甲箱蟹をケジャンのように醤油などの調味料で漬け込んだもの。
何日もおいしさの余韻に浸ってしまう、記憶に残る一品。味付けのバランスが絶妙で、素材の輪郭をハッキリと出しつつ品のあるおいしさ。ケジャンとは違う、和の美味しさに仕上げているあたりも大将の素晴らしさ。にぼしがほんのり効いていて、その風味がスッと味わいに溶け込んでいる。
炊きたての銀シャリを少し頂きながら。コース中盤で炊きたての土鍋炊きご飯が準備されるという、この手間も有難い。このご飯がまた素晴らしく、お米が立っていて輝いていました。
酒泥棒でありご飯泥棒でもある、ふじ居さんの冬の逸品。
●八寸
秋色の八寸。すっかり暗くなった夜の景色に紅葉した葉が浮かび上がります。グラデーションも美しくずっと眺めていたくなる。
藁苞の中には、鳥松風焼、魚すり身カステラ、魚津のラフランスの白和え衣。
七尾新イクラ、八尾モナカに大和芋ととんぶり、エノキとジャコを炒めた京都のおばんざい、生麩チーズはさみ焼。
●かます
かなり立派なものだと思われるアカカマスを松茸を巻いて炭火焼に。
●あんぽ柿
紅白なますに福光のあんぽ柿、胡麻醤油で。菊の花の器は京焼の白菊。この料理も次の料理も、コース中の“引き”となるが、そういう料理に発揮される料理人の繊細さと実力。藤井大将は細部まで手を抜かない。
●里芋
上市の里芋を炊いたもの。当代矢口永寿で。
●吹き寄せごはん
さつまいものイチョウ、にんじんのもみじしめじ、ムカゴ、銀杏、蓋を外すと目に飛び込んでくる秋の景色。心踊る吹き寄せごはん。
●プラチナアイス
スペシャリテ。満寿泉の純米大吟醸の酒粕を使った重厚な味わいのアイス。
●炉の火
炉開きの季節、炭に種火が灯る景色を表現したお菓子で、海老芋あんに金時人参、能登大納言。
海老芋あんのなめらかなな口当たりと儚い口どけ、滋味と自然の甘さ。このコースを昇華させるのにふさわしいお菓子。
2020年8月13日 夏 ボタン海老、越中バイ、鮎ごはん
ちょうど1周年の日に予約を入れることができました。春はコロナ禍で営業が出来ませんでしたが、移転されてパワーアップしたことで、より一層注目されて全国的に名を轟かせるようになりました。北陸を代表する一店。
移転してからこの1年、私は7回来れたことになります。
今回は前回から日を置いていないので、食材がかぶるものがありますが、アレンジを効かせてあるところがさすがと言えます。
●白海老と夏野菜
●能登珠洲じゅんさい椀
藤井大将には珍しくシンプルにじゅんさいのみ。清らかなじゅんさいの味わいを包み込むような吸地のまろみと妙。この日は1周年ということで鶴のお椀で。
●お造り 新湊 鮎魚女
この日市場で一番良いものだったというだけある絶品の鮎魚女。噛むほどにとくとくと広がる甘み。美味。茜色の器は釋永岳さん。
●お造り 新湊 ボタン海老
まだ元気に跳ねる特大の活ボタン海老を目の前で調理してくれた。
寝かせた海老のねっとり甘い美味しさとはまた別物。ひんやりと舌に当たる締まった身は力強い弾力あり、透明感のあるクリアな味わいと甘さが、喉にいつまでも残り余韻する。とにかく美味なボタンエビだった。
器は4代 須田菁華
頭は焼いてくれた。
●のどぐろしゃぶ
レア感を残して軽くしゃぶしゃぶしたのどぐろ。やや厚みを持たせた切り方で、たおやかな食感に。のどぐろの良さを最大限活かす。
●八寸
氷に盛り付ける涼やかな八寸。ふじ居さんでこの演出は初めて。
四方漁港の岩牡蠣フライ、汲み上げ湯葉、魚のすり身と卵のカステラ、八尾高野さんの最中にビーツ、富山枝豆、胡瓜うるかサンド、茄子田楽、福光の夏の風物詩どじょう蒲焼き
●ばい貝
越中バイを藁焼きにて。こちらも記憶に残る美味しさ。咀嚼するたび湧き出でる甘さは、口の中に波紋するように広がりいつまでもその余韻が消えない。鼻腔に抜ける藁の香りがふっと旨味を持ち上げるようだ。
●あわびずいき
生地漁港の立派な鮑、ズイキと橙酢で。
●冬瓜はも
こういう料理に藤井大将の謙虚な仕事が現れます。貫禄と繊細。
●鮎飯
ご飯を覆う天然鮎に心踊る。お食事でも今一度見せ場を持ってくるあたりがニクイ演出。
食べきれなかった分はお持ち帰りに。
●水物
やまふじぶどう園の葡萄とセイズファームのソーベニヨンブランのグラニテ。いつもは満寿泉さんのプラチナ酒粕アイスなのですが、今回はスッキリと夏らしい水菓子で。
●葛きり
2020年7月15日 夏 鱧、鮎、玉蜀黍ごはん
岩瀬に移転後6回目の訪問。8月でもうすぐ1周年なので、2ヶ月に一度お邪魔していたことになります。
王様食材が揃う冬ではなく、夏のふじ居さんもすごいんです。毎年この時期本当に楽しみ。
確かな技術の上に花咲く、藤井大将のオリジナリティ。また、毎回感じますが、小さな添え物ひとつにも手を抜かない真摯な姿勢はほんと藤井大将の“らしさ”だと思いますね。
●長芋羹、雲丹、じゅんさい
昔は七夕の短冊として使われていた梶の葉をかぶせて、八尾の和紙の短冊をしつらえて。純白の長芋羹が涼しげ。珠洲じゅんさいのゼリー状の膜の厚みよ。清い味。
●鱧 冬瓜椀
浅縹色のテッセンが描かれた輪島塗が素晴らしいこと。これは気持ちを持っていかれました。ドキドキ。蓋を外すと見返しにもテッセン、そして純白の富山新湊の鱧が咲く。鱧、まずはお吸い物として。鱧に合わせた吸地も秀逸。
●お造り
お次、鱧は落としで。渋さと落ち着いた風合いに、デザイン性が加わったこの器は高取焼です。
●毛蟹 はす芋
明の古染付で。立派な輪島の毛蟹、橙酢でさっぱりと。
●冷麦
笹切の冷麦。笹の葉を粉末状にしたものを練り込んであり、ふぅと鼻腔を抜ける風流な香りが鼻腔を抜けてから、ちゅるんと滑る麺が喉の奥へリレーしていく。
●八寸
後半の見せ場。八尾「下尾デザイン」さんの、一枚板から丁寧に削った木の器で。
天然鰤を乾燥させた“イナダ”を胡瓜挟み、すり身のカステラ、茄子田楽、サザエ味噌和え、生麩のカマンベール射込み、八尾モナカにビーツ、万願寺唐辛子じゃこ炒め
●神通川天然鮎
今しがたまで泳いでいた地物天然鮎を炭焼に。笹のしつらえで登場。もくもく上がる白煙は、ほうじ茶葉に炭をのせて出しています。こうすることによって香ばしい風味づけにもなります。まだ細い鮎は頭から尻尾までいけるのがいい。
●四方の真蛸 叩きオクラ
●吉川なす
福井鯖江の伝統野菜のひとつで、丸なすの一種。近年料理人さんから注目を集めているのですが、なるほど唸る美味しさで、最近夏これが食べられるのが楽しみになってきました。繊維がとてもきめ細かくシルキーで、身が詰まっており甘さもあり。
●玉蜀黍ごはん
待ってましたの毎夏の楽しみ。中川一辺陶さんの土鍋にて。御飯鍋の蓋を外すとパッと美しい向日葵色が目に飛び込んできて、玉蜀黍の甘い太陽の香りが鼻腔をくすぐる。焦げめにも食指が動く。ああ、食べる前からもう美味しい。
玉蜀黍は黄白の2種で、プツプツ弾けてぴゅっと飛び出す甘いエキス、絶妙な塩気が次の一口を急がせます。
お土産にも頂きました。翌朝の楽しみに。
●プラチナアイス
ふじ居定番のデザート。満寿泉プラチナの酒粕で作ったアイスクリーム。
●水羊羹
季節のデザート。能登大納言小豆の水羊羹は高貴な香りが秀逸。
2020年4月5日 春 山菜、白海老
前回から1ヶ月経たない訪問ですが、食材は山菜が大幅に増えてまた違う景色を見せてくれました。筍や白海老も食べられましたし、各料理に藤井大将の技術力の高さが光っていました。
●春菜浸し 雲丹
たらの芽、ゼンマイ、カタクリの花まで。春の山のささやきが聞こえるような前菜で幕開け。
●白海老真薯
富山湾の宝石と言われる白えびの真薯に春の喜びを感じます。桜の花びらが幻想的にゆらゆらと吸地に遊び、なんだか海の中で戯れる白えびを思わせる。
●細魚
●鱒しゃぶ
●白海老
お次の白海老は造りで、繊細な口どけと甘さに浸ります。永楽善五郎16代乾山写にて。
●大門そうめん
1年もののカラスミをふわふわと削って、ほんわりと塩味と旨味を纏わせて。ああ、美味。繊細なおいしさ。
●八寸
さすが藤井大将らしい春の八寸、筍の外皮を黄金に塗ったものを器にして。
●筍
高岡の筍は土がついたままのものを準備してくれました。それを外皮をつけたまま、真っ黒になるまで炭火で焼いてから、その外皮を丁寧に外す。包み焼きになり内包された筍の甘さよ。少しの塩でおいしさの輪郭が増す。知らなかった筍の美味しさ。
●山菜天ぷら(つくし、たらの芽、こごみ、蕗の薹)
三方に並ぶ富山の山の恵み。4種類これらを一品ずつ天ぷらにして、揚げたてを食べさせてくれました。
●ふきの木の芽みそ和え
こういう一品が秀逸なのが、本当に素晴らしいと思います。ミネラルを感じるスッとくるふきの苦味と、爽やかな木の芽の風味。
●若竹煮
●ホタルイカ飯蒸し
ホタルイカのペーストを飯蒸しにのせ、ソースのようにして。
●プラチナ酒粕アイス
ふじ居定番のデザート。満寿泉のプラチナの酒粕で作ったアイスクリーム。
●桜餅
2020年3月19日 春 ホタルイカ、熊そぼろ丼
前回から約2ヶ月後の訪問。ガラリと食材が代わりホタルイカの季節。料理のおいしさや器の素晴らしさはもちろん、お献立構成、プレゼンテーション力が高く感動がありました。ちなみにお献立は八尾の和紙に書いてあります。
●半生 干クチコ
艶っとした黄丹色の干クチコに最初から気持ちの高ぶりが抑えられない。通常の干クチコは天日で干物にするためアタリメのような食感で、旨味が凝縮され醇酒系の酒にぴったり。能登の代表高級珍味。これは“干し”と言っても半生で、見るからにみずみずしく重量感あり思わず食指が動く。
炭火で少し温めて。歯が快感に喜ぶような厚みのあるソフトな弾力と、優しい塩味、温度と共に広がる旨味。絶品だ。ふきの苦味が引き締めるのもまた素晴らしい。
桃のお節句3月らしい菱形の黄交趾は、クチコと同系色ではあるが盛り栄えがする。
●お吸い物 薄豆豆腐
えんどう豆と吉野葛を練って作った薄豆豆腐は、春を感じさせる若草色。岩瀬のふきのとうを添える。雅な薄甘さと苦味、趣ある妙味が口の中にこだまする。
●七尾アイナメ 湯霜造り
器は9代大樋長左衛門の合わせ蛤。
●岩瀬黒ムツしゃぶしゃぶ
脂の乗った黒ムツはしゃぶしゃぶで。器は高取焼。
●五箇山豆富の田楽 木の芽味噌
●ホタルイカ炭火焼
今年は豊漁のホタルイカ、活で準備してくれた。調理前に活ホタルイカが光るところを見せてくれた。店内とお庭のライトを落とすと、少しではあるがホタルイカが幻想的な青碧に発光する。
このホタルイカの目と口を取り炭火焼に。炭火焼は2段階で食べ比べ。まずはさっと焼きで。2度目はしっかりめに。しっかりめに焼くと身と肝の食感の差が大きくなるので、肝が飛び出す時のじゅわっと感が増す。いずれもうまいが、なるほどの対比。
●ホタルイカ沖漬け
藤井大将が四方の船上で、獲れたてのホタルイカを沖漬けにしたもの。品のある沖漬けで、味の入りも良く美味。
●岩瀬あん肝 煮付け
いつも食べているあん肝とはまた別の美味しさを教えてくれた。なんと煮付けで。
蒸してポン酢ではなく、強い火力で一気に煮付けたあん肝。今日獲れたばかりの新鮮なものだからこそ火力に耐えられる。味付けの香ばしさと甘さにも負けない、全てが一体となり調和するあん肝。
●八寸
後半の見せ場である華やかな八寸は季節を表すジオラマ。八尾「下尾デザイン」さんの、一枚板から丁寧に削った木の器で。滑川ホタルイカ酢味噌、七尾イイダコ、引千切の器には桃に見立てた生麩、すり身カステラ、ジャコセロリ、スモークサーモンの黄身寿司、八尾高野の最中にふきのとう味噌。
●岩瀬のど黒 木の芽焼き
黒ムツしゃぶしゃぶのお次は炭火焼のど黒。たぷたぷと美味しい脂が波のように押し寄せ、木の芽の青く爽快な風味で脂を切る。器は唐津焼 藤ノ木土平さん製。
●池多の野芹
●菊芋すりながし、菜の花
●熊そぼろ三色丼
最後に再び歓喜。ホタルイカと魚料理の流れの締めにこれは参りました。富山大長谷の月ノ輪熊をそぼろにして三色丼に仕上げる。
熊の溢れるパワーが炸裂する美味しさで、ご飯を勧めさせる。うまい。大人の三色丼。
丁寧にお持ち帰りにしてくれる。これもまた嬉しい。
●プラチナ酒粕アイス
ふじ居定番のデザート。満寿泉のプラチナの酒粕で作ったアイスクリーム。
●菜の花
自家製上生菓子の刹那の美味しさよ。練り切りあんはユリ根ベースで緑色はほうれん草から、黄身餡を飾り付けて菜の花に。あんは土鍋で炊いた能登大納言。
このみずみずしさと繊細が最高のフィナーレ。お薄で一旦心を静めるが、帰り道も夢心地だった。
2020年1月8日 新春 カラスミ餅、鰤カツ、熊うどん
毎回すごいことになっていて、藤井さんの春の木漏れ日のような温和な笑顔の奥に潜む、クリエイティビティが宇宙だなぁと。「次はいつ来よう」「次は次は」とわざわざここに来るのが楽しみになっている自分がいます。
今回は年明けということで、お正月らしいお料理も織り込んでくれましたが、さすが一線を画した技術で“料理屋さんの新春料理”の凄みを教えてくれました。
まずは新年らしく大福茶。からの一献。
お酒は満寿泉「土遊野」の生(ラベルなし)と、新年らしく満寿泉「寿」大吟醸で。
●数の子なます
数の子は予め味噌漬けにして丸い甘さを添えて。紅白なますの甘酸っぱさと呼吸を合わせてあります。
●蛤しんじょう椀
吸地は蛤の旨味が口の中で膨らみ、味わいに浸りたくなるおいしさ。蛤の真薯はほわほわで口溶け良く美味。
●カワハギ お造り
岩瀬のカワハギをお造りで、肝を添えて。食材のポテンシャルが高いのと、藤井さんの刺身の引き方が素晴らしいのとで、絶品と言わず何と言えば良いのか。人生で1番うまいカワハギだったかもしれない。フレッシュ感と余韻に残る旨味、そして絶妙な弾力。美味。
●ヤリイカ お造り
四方(よかた)漁港のヤリイカをお造りで。こちらも目の前で魅せてくれる包丁技術が素晴らしく、“刺身は料理”なんだということを再確認させてくれる。
●からすみ餅
木工象嵌の桐火鉢でまずはお餅を目の前で炭火焼きするという、たまらない演出。お餅は、満寿泉の貴醸酒を仕込むときに使う古代米の緑米を使用。もうこれ聞くだけで十分美味しいでしょ。表面が狐色に焦げ、ぷくっと焼き上がったお餅に、カラスミを削ってかける。パワーみなぎる力強いお餅に、素焼きの香ばしさ、ふわふわと軽く塩味と旨味を添える削りカラスミ。なんて贅沢な。
器は作者不明ですが明の時代末期のもの。
●八寸
八寸もお正月らしく。宝珠の器には牛蒡、池多牛ローストビーフ、紅白ちよろぎ、真鯛の龍飛巻き、白身入りカステラ、黒豆、棒鱈、スモークサーモン温玉射込み
●天然ぶりカツ
鰤は腹の部位をカツにして。
柚子塩(手前)とソース(奥)で。サクッと香ばしさの後にほとばしるおいしい脂。とろける。
●なまことろろ
●ぶり大根
痺れた一品。鰤からの旨味を吸った大根を味わう鰤大根。鰤の姿はありませんが、口の中で鰤の美味しさの存在感がすごい。美味。器は永楽。
●甲箱飯蒸し、熊うどん
飯として甲箱飯蒸し、汁は熊うどんという豪華なお食事。初出しの蒸籠だったそうで、木の香りが寄り添う。
熊うどんはふじ居さんのファンなら知っている、冬のスペシャリテ。伊賀鍋でふつふつしながら登場。五箇山の月の輪熊の出汁がよーく染み出た骨太な味わいのスープに氷見うどん。氷見うどんはキリッと冷たいのも美味しいですが、煮込んでもコシが失われないしテロッと絹のように滑って美味。あぁ、おいしい。もう満腹で苦しいくらいなのに、よくばっておかわり。
●プラチナ酒粕アイス
定番のデザート。満寿泉のプラチナの酒粕で作ったアイスクリーム。竹をイメージした風流なスプーンは、高岡の錫メーカー「能作」製でふじ居さんの特注品。指にも舌にもひんやり当たる。アイスはしっかり濃厚で酒粕らしい存在感のある味わいだが、このJAPANなニュアンスとふくよかでミルキーな味わいがクセになる。
●和菓子
雪が積もった松“雪持松”をイメージしたお菓子。百合根と緑はほうれん草、中の餡は能登大納言。艶やかでみずみずしくねっとりした口当たりで、ほうれん草の青い風味と野趣も味方につけた素材感を立てたお菓子。
2019年11月30日 冬 ブリ、甲箱ガニ
前回8月30日から3ヶ月ぶりのふじ居さんです。ブリやカニと言った北陸の主役食材が揃う冬。それだけでおいしいですが、ふじ居さんでは店主藤井さんらしい工夫が光っており、「やはりこの季節に訪れて良かった。」と思いました。
まずは香煎茶をホッとなったところでお酒を決めます。
●岩瀬真鱈子付け 器は永樂得全(14代)。
●四方グジかぶらみぞれ仕立て
レトロな画風の吸物椀は輪島塗の椿碗で、冬、雪景色の中に凛と咲く椿を見つけたときの喜びを思い起こさせる。椀蓋を外すと、グジを覆う聖護院かぶらのみぞれ雪。富山の四方漁港であがったというグジは切り身でも厚みあって、きっと立派なものだろう。身が柔らかく美味。
●四方アオリイカ造り
イカに細かく隠し包丁を入れる藤井さんの見事な包丁使い。見惚れながら待つのもいい時間。イカの白が調和する器は、清(しん)の時代の染付。また味わいのある器で嬉しい。
●新湊天然ブリ造り ブリトロ、砂ずり
富山の冬の王様、まずはお造りで。脂がのった部位、大根おろしでさっぱり。説明不要のおいしさ。まずは地物の寒ブリを食べられる幸せに浸る。
●真鱈白子
ふくふくと湯気が立つ柚子釜の中には、ツヤッと照り輝く弾けそうな真鱈の白子。黄柚子の冬の風味を添えて。
●甲箱蟹
富山は“甲箱”と書くのでしょうか(能登も甲箱でした)。藤井さんの甲箱はぬくぬくとした温度で出してくれるので、ほわっと甘さが開いており、炊きたてのご飯を食べるような口福感がある。
●八寸
村に人知れず降り積もった雪景色のような、冬らしい八寸が卓上に登場。ジオラマを眺めるようで心踊る。
婦中じねんじょ、ほうれん草 五箇山豆腐の白和え、八尾最中とんぶり、魚津洋ナシ胡麻醤油、すり身カステラ、鶏松風パテ、じゃこエノキ
●ブリカマ
器は白井半七。ぶりカマは杉板を挟んで木の風味を添えて。大胆に焼き付けた皮目に箸を入れると、中から蓄えられた脂が滴る。皮目の食感と香ばしさにのって、木のいい香りが鼻腔に広がり、おいしい脂が口の中にほとばしる。美味。
●福光あんぽ柿
菊の花を模した器は京焼の白菊。福光のあんぽ柿は有名でもちろん美味しいが、敷いてある紅白なますが繊細でさすがだなぁと思いました。
●ブリ大根
器は永樂妙全(永樂得全の妻)。作品の評価が高いと言われますが、本当に一目で魅きつけられる器です。独特なセンスと色彩。古いけど新しい、重厚だけど軽やか。
ぶり大根は素材の美味しさを立てた控えめな味の添え方ですが、お出汁の味が入っていて美味でした。
●甲箱ケジャン 銀シャリ
これは興奮せずにはいられない。釈永岳さんの器で登場したのは、甲箱ガニをお酒で酔っ払わせて醤油ベースの調味料で漬け込んだ甲箱のケジャン。酔っ払いガニとも言いますね。見ただけで食指が動く。古酒が飲みたくなるやつでもあります。
捌いて身出しし、炊き上がったご飯と一緒に出してくれるというニクい演出。カニ足と内子のとろとろなまめかしい舌触り、外子の弾ける食感。噛むほどに広がる重厚な妙味に酔いしれます。これはもう思うがままに。ご飯にのせて、おかわりは必至。最後は甲羅にご飯を入れて味わい尽くすのも良し。
残ったご飯はお持ち帰りにしていただきました。
●プラチナ酒粕アイス、炉の火
定番の満寿泉のプラチナの酒粕で作ったアイスクリーム。
炉の火をイメージした金団(きんとん)、裏ごしの海老芋で。中は能登大納言、そして金時人参で火を表します。
2019年8月30日 夏 のど黒、鮎、青バイ貝
今回の珠玉食材は何と言っても、2キロある新湊の“釣りのど黒”で、大きさにも味にも圧倒されました。
●岩瀬白海老と夏野菜
最初の一品。青々とした大きな蓮の葉を器にして、白えび夏野菜寄せをのせて。藤井さんの寒天寄せ、好きだなぁ。
●はも 冬瓜
輪島塗の椀蓋に描かれているのは、毎年9月1日〜3日に越中八尾で開催される(前夜祭8月20日から)風流なお祭り「おわら風の盆」の“男踊り”。ポーズが5種類あるそうで、お隣さんとは動きが違うんです。
さらに驚いたのは、見返しに描かれている“女踊り”。風の盆ムードが高まる中、卓上でも風の盆を楽しませてもらえて嬉しい。
藤井さんの吸地は本当に好み。ホッと胸を撫で下ろせる美味しさと洗練。そこはかとなく立ち上がってくる甘さあり、鱧がよく合う。
●新湊 マゴチ
こういう薄造りはセンスが大事なのか、藤井さんの薄造りはいつも厚みが程よくて美味さ最大限に感じられます。珠洲の天然塩が甘さを引き出す。
●新湊 バイ貝炙り
越中バイ(青バイ貝)は大きさが立派なのですが、殻が手でクシャッとできるほど薄い。身はこんなに大きい。
これを藁焼きにして瞬間で香りを移す。藁は火がすぐに消えるので火が入り過ぎず、ほんのり炙るのに適す。
馥郁たる香りと、思わず目を閉じて味わいに浸りたくなるやわらかさと甘さ。美味。柿茶色の濃淡が趣深い瓢箪の器は瀬戸焼で、バイが映える。
●新湊 のどぐろしゃぶ
新湊の“釣りのど黒”のタグ付きで、この日の市場の最高品だろう2キロはある大物。お腹もパンパン。なんだか気分はお正月(笑)。これを目の前で捌いでくれたものをしゃぶしゃぶに。なんて贅沢なんだろうか。
これだけ面が取れるのは、やはり大物だからこそ。もちもちとした身を口いっぱいに頬張る幸せ。なるほどこれは塩焼きよりもしゃぶしゃぶがいい。おいしい脂を蓄えたたおやかな身。余韻までしばらくずっとおいしかった。
●八寸
八尾の「下尾デザイン」さんの、一枚板から丁寧に削った木の器に八寸を。
左から、桃のごま醤油、きぬかつぎ、白身入りの自家製カステラ、茶豆、富山南砺市どじょうの蒲焼き、汲み上げ湯葉、八尾高野さんの黒ごま最中にビーツペースト
きぬかつぎには京都の大徳寺納豆が射込んであって、その塩味とコクが生酛の酒に抜群の相性だった。
●神通川 天然鮎
さっきまでピチピチ元気よく跳ねていたやつを塩焼きで。
この時期はもう大きくなっていて頭からというわけにはいかないが、藍墨茶色の皮目の香ばしさとふっくらした身の対比が美味。
●ズイキ 雲丹
北海道産はだての生うにも美味だが、ズイキが端正でしみじみうまい。橙酢が良く合う。こういうところは藤井さんさすがです。
●吉川なす
福井鯖江の吉川なすは丸茄子の一種で伝統野菜のひとつで、繊維がとてもきめ細かくシルクの舌触り。藤井さんの茄子料理は見た目は超シンプルだが美味。夏のスペシャリテ。
●とうもろこし御飯 香の物 汁
中川一辺陶さんの土鍋にて。ご飯を覆い尽くす艶っと眩しいトウモロコシの黄色、そして焦げ目に食指が動きます。
太陽の香りが鼻腔をくすぐり胃袋が騒ぎ始める。プチッと跳ねてぴゅっと飛び出るエキス、出汁の効いたご飯にトウモロコシのおいしさも溶け込む。塩味の加減も絶妙で次の一口を急がせる。食べ出したら止まらない!
もちろん2杯目も。おかわりで頂いたおこげににんまり。
お持ち帰りにも頂きました。
●プラチナ酒粕アイス、能登大納言あずき
満寿泉のプラチナの酒粕で作ったアイスクリーム。赤く大粒が特徴である能登大納言あずきと共に。お薄を頂きながら、「ああ、次は秋に」と思うのでありました。