いよいよ2020年12月22日に富山県の利賀村にオーベルジュとして移転オープンのイノベーティブレストラン「L'evo(レヴォ)」。「すごいものができるんだろうなぁ」いう予想を遥かに越えて、とんでもなく素晴らしいものが出来上がっていました。私の中で2020年ナンバーワンの衝撃と美味しさ。
オーナーシェフ谷口英司さんが掲げるコンセプトは“前衛的地方料理”。究極の地産地消を追求するために山奥に移転するという思い入れの強さで、シェフの“妥協をしない”という姿勢もここで色濃く感じられました。計画が壮大で、構想を形にするまでの苦労は計り知れません。谷口シェフが料理人人生をかけて全力で取り組んだプロジェクト。世界に照準を合わせたディスティネーションレストランであり、ここでしか味わえない真のローカルガストロノミーです。
オーナーシェフ 谷口英司 プロフィール
1976年大阪生まれ。高校卒業後に就職したホテルでフランス料理と出会い、日本国内やフランスで修行。2010年に移り、2014年「レヴォ」を立ち上げる。「ゴ・エ・ミヨ東京・北陸2017」で、最高賞の「今年のシェフ賞」を受賞、「ミシュランガイド富山石川(金沢)2016特別版」で1ツ星にて掲載。2020年、自らの理想を形にしたオーベルジュ「レヴォ」を利賀村にオープン。
「プロフェッショナル 仕事の流儀」での放送も記憶に新しい。
(同店は以前、リゾートホテル「リバーリトリート雅楽倶(がらく)」内にありましたが、2020年1月19日に雅楽倶での営業を終了し移転開業準備へ。約11ヶ月の準備期間を経てついにオープンとなりました。)
【紹介項目】
(訪問 2020年12月19日)
レヴォのロケーション・施設
場所は富山からも金沢からもかなりアクセス困難な利賀村にあります。まずはたどり着くまでが冒険。利賀村は山深く、深い自然に囲まれ、道を進んでいくと時折野生動物に出会うこともあります。特に冬は雪深くて、金沢や富山の街にいると予想できないくらいの積雪量です。雪をかぶった山々は神秘的ですが、吹雪くと脅威的です。
アクセス難易度が高く時間もかかりますが、だからこその原風景が醍醐味と言えます。
(水面に鏡のように映る大渡橋と雪山の風景)
オープン前の2020年12月19日に予約を入れていたのですが、その日の大雪の警報の通り、吹雪に向かって進むことに。土地勘ある方がハンドルを握ってくれたので迷わず到着しましたが、雪で道のりは危険なものでした。私の運転では行けないなぁ。
レヴォは利賀川を望む場所にあり、細い橋を渡って到着となります。傾斜のある屋根の集落が見えてきたらゴール。これがレヴォです(レストラン棟)。
敷地には、レストラン棟とコテージ3棟、パン小屋、サウナ棟の計6棟があります。
もはや身長よりも高く積もった雪。スタッフさんが毎日除雪をしていますが、それでは追いつかないくらい降ります。
宿泊は1日3組限定。大きなベッドのあるシンプルなコテージ、畳の寝間のあるコテージ、テラス付きのラグジュアリーなコテージと、タイプの異なる3つのお部屋があります(金額は各部屋で異なる)。
私が宿泊したA棟は3つの中では1番コンパクトなお部屋。天井が高く、部屋の中央にはキングサイズのベッドが鎮座するゆったりとした造りで、大きなガラス窓には雪景色が広がっていました。
音もなく空から落ちてくる雪を、ボーっとしばらく眺めているだけで既に数センチ積もっていました。ガラス一枚隔てて厳しい冬山です。
また、男性が喜ぶのがサウナ。(私は詳しく解説できませんが)サウナは電気ではなく薪ストーブで、サウナストーンに水をかけるロウリュも可能。雪が積もっているときはサウナ後に雪に飛び込めます。
レストランのメインダイニングの下には、ジビエ熟成庫とワインセラー、ディジュスティフを楽しむスペースがあります。
レヴォのディナー
以前とは違ってメインダイニングは広いオープンキッチンで、厨房の臨場感と緊張感がダイレクトに伝わってきて気持ちが高揚します。
テーブルは、八尾の木工家“Shimoo Design”さん製の天然木材を使用したものです(テーブルの他にも器やバターナイフなどもShimooさん製)。テーブルの引き出しを開けると、城端の松井機業さんの“しけ絹”を使用したメニューとマスクケース、一献用に富山のガラス作家 安田泰三(やすだたいぞう)さんのグラスが入っています。
谷口シェフの料理のコンセプトは“前衛的地方料理”。ポテンシャルの高い地元食材を使用してきたのは以前からですが、さらにこの山奥だからこそ提供できる食材にフォーカスしています。ジビエの熟成庫に加わえ、ジビエの解体場も別棟にあります。
春からは土からこだわった畑で野菜も育てる予定だそうです。また、天然のフレッシュな山菜も楽しみです。
真のローカルガストロノミー。唯一無二であり唯一無比。この場所で谷口シェフにしか生み出せない料理です。
器は釋永岳さんをはじめとする、富山の陶芸家さんや陶芸作家さん、ガラス作家さん製で、以前よりもアイテムが増えています。一つ一つの作品が素晴らしいので器もぜひご堪能を。
●プロローグ
5種類のアミューズから幕開け。香箱ガニ入の八尾もなか、黒部「Y&Co.」さんシェーブルチーズのグジェール、熊の手のタルトレット、ゲンゲと山椒、ビーツマカロンに鶏レバー。
特に印象的だったのは熊の手のタルトレット、菊芋チップのせ。これは初めて出てきたアミューズ。口に放り込みタルトが弾けた瞬間にゼラチン質がとろとろと口に雪崩れ込みます。
●寒鰤
冷たい山風に当てた寒鰤と大根を組み合わせた谷口シェフの“鰤大根”。高級食材であるキャビアに目が行ってしまいますが、実はこれはシェフの自家製であり、主役としてではなく調味料的に使ってあり、鰤と大根のコンビネーションを引き立てます。
キャビアはシェフが鮫を捌いて自分の塩分濃度で作ってあるため、塩気に邪魔されることなく魚卵のおいしさが伝わりました。天然の西洋ワサビのソースが引き締めます。
●パン
敷地内のパン小屋で作ったパン。
●月ノ輪熊(春)
春をテーマとした熊の一皿。春どれの熊に熊のジュレ、ウニ、干ゼンマイ、子持ち高菜などをあしらった、心浮き立つような華やかさです。春の熊は冬眠明けで脂が落ち、野生的で嫌な臭みがある印象ですが、ネガティブな個性やパサつきが出ておらず、とろんとたおやか。赤身の美味しさを教えてくれました。
また、今のような冬の時期は食材がなくなるため、ゼンマイなど保存できる食材を冬に向けて作り出す雪国の習慣や知恵も織り込んであります。それらの食材で春を上手く表現。
●水蛸
水蛸だが冷製のカルパッチョではなく、熾火で絶妙な火入れを施した、程よいスモーキーな風味のある温かい一品。足のほちゃほちゃと柔らかな食感、吸盤の遊ぶような歯応えが楽しい。
大葉のオイル、梅のソースで。
●真鴨
鴨つくねを鴨の血と内臓の重厚でビターなソースで。予想以上にレアな仕上がりで、炙りタルタールのような印象。氷見セイズファームさんの葡萄の枝を使用。
●大門素麺
乾麺として流通する大門素麺(おおかどそうめん)ですが、これは半生麺を使用しており、もちもち食感と旨味があります。
白いスープは黒部「Y&Co.」さんのシェーブルチーズで、緑のオイルは春に採れたフキノトウ。とても個性的な2つの風味の方向性を合わせておいしさに昇華させているところに感動があります。
●月ノ輪熊(冬)
春の次は冬をテーマとした熊の一皿で、全く違う景色を見せてくれました。まず、脂を蓄えている冬の熊なので、脂の幅に驚きがあります。それをしゃぶしゃぶとして。一般的な醤油ベースではなく、繊細な雉のコンソメなので脂そのものの美味しさが伝わります。先ほどの“春”とは食べさせる目的とおいしさのポイントが違う“冬”の熊。
●L'evo 鶏
レストラン名を冠した谷口シェフのスペシャリテ。L'evo鶏はシェフが生産者さんと連携し、満寿泉の酒粕など飼料から指定して育てています。前回まではどぶろくを塗って旨味を凝縮させ、山野草やもち米を詰めていましたが、今回は熊の内臓を詰めて大地のパワーを感じる味わいでした。
●赤蕪
この辺りの特産物である赤蕪を、腐葉土で包み焼きにした一品。シェフの新メニューですが、スペシャリテになるのではないでしょうか。日本一美味しい蕪料理だと思います。
“包み焼き”という手法はレストランでよく見かけますが、旨味を内包するだけでなく、意図的に水分を抜くことで、より一層蕪の旨味が凝縮していて、甘さがグッと前に出ていました。感動的美味しさ。
●真鱈
以前は“漆黒”という名前で提供されていた料理。鱈をイカの黒づくりで熟成させて熾火焼きに。百合根のようにほぐれる繊維感に加えて、さらにキメ細かくほぐれます。カリフラワーのピュレを添えて。
●仔猪
今まで食べた中で一番美味しかった猪料理。火入れがパーフェクトで、赤身もそして脂もサラッとピュアな味わいで、ボリューム感があると思いきやすんなりと胃に納まりました。ちよろぎ、干し大根、ほうれん草と共に。
さらに、高村刃物店製のオリジナル木製ハンドルのナイフが、スッと気持ちいい切れ味で、おいしさに貢献していました。
●よつぼし苺
乾燥させたイチゴの薄いチップが透き通っており花びらのよう。イチゴのシャーベット、モッツァレラチーズ、春菊、トマトのエキス。
●あんぽ柿
どっさりと屋根に降り積もる利賀村の雪を連想させるデセール。あんぽ柿だけでも完成された美味しさなのに、それ以上に美味しくするという感動のある一品。マスカルポーネのもったりとしたエスプーマに塩を添え、塩であんぽ柿の甘さと存在感と輪郭を出す。
●カフェ、プティフール
レヴォの朝食
宿泊の楽しみは朝食。
朝食は和で、この辺りの郷土料理がプレートで出てきます。夜の間に静かに降り積もった新雪を眺めながら頂きました。
ご飯(イセヒカリ)、なめこのお味噌汁、利賀とうふの煮しめ
郷土料理プレート:(右下から)灰干しにして薪の香りをつけたハタハタ、赤カブ漬物、利賀村のじゃがいもを甘辛く炊いた郷土料理“かっちり”、きくらげの辛子酢味噌和え、南蛮味噌、赤カブの葉の炒め物、そうめん瓜漬物、鹿肉、わさび菜
清々しい朝のひと時。
春夏秋冬で顔を変える利賀村とレヴォの料理を楽しみにまた訪れたいです。次は春に。