最初に言っておくと玄人向けのお店です(※紹介制)。2018年5月16日に暖簾をあげた日本料理店で、開業1年経たない間に噂になり全国・世界の食通の間で注目を集めています。場所は、金沢では通称“女川”と呼ばれる浅野川沿いの、卯辰山に続く天神橋のたもと。雑踏のない静かな雰囲気が漂います。店主の片折卓矢さんと女将の裕美さんは、お二人とも「懐石つる幸」さんのご出身。女将さんもつる幸時代は調理場にいらっしゃいましたから料理解説もピカイチ。おもてなし、気配りの細やかさも超一流。つる幸の後は、「玉泉邸」さんのオープン(2014年4月1日)から3年半強、料理長と女将を務められました。昼夜営業で、かつ結構なキャパシティの日本料理店ですから、かなりお忙しい日々をお過ごしだったのではないでしょうか。お二人のご努力あって玉泉邸さんは大変な人気店になり、ミシュランガイドでは1ツ星も獲得されました。そこから独立出店されたのがこのお店です。玉泉邸時代は後半くらいからどんどん研ぎ澄まされて進化されていましたから、これからどのような風に突き進まれるのか楽しみでした。
現在は食べログ石川では堂々の1位。メディアにはあまり出演されませんが、2019年6月放送の「人生最高のレストラン」では、ミシュラン3つ星12年連続獲得の「カンテサンス」岸田シェフが選ぶお店のひとつとして紹介されました。さらに、2019年8月31日放送の渡部建さんの「アナザースカイ」が金沢でしたが、渡部さんの昨年のトップレストランだと片折さんが紹介されました。
ちなみに店名はつる幸先代の河田三朗さんが書かれました↓
さて同店片折ですが、修行先のつる幸さんとは真逆な感じのお料理ですし、玉泉邸の頃ともまた違うので、片折さんの事を元々ご存知の方のほうが今のスタイルに戸惑われるかもしれません。“日本の美”“日本料理の美”の中でも、食材に関しては季節の“地産地消の究極”、味わいに関しては“引きの美学”で食材を最大限に立ててあります。見た目に派手さは無いけれど、シンプルの奥に宇宙を見せてくれる料理。“単味”を立ててありますね。なんと、店主自ら毎日能登や氷見を回って、魚、野菜、水などの食材を調達しています。片折さんの1日は長い。まだ明るくなる前に金沢を出て、氷見を経由して奥能登珠洲や七尾など回る。片道ですら3時間強はかかる道のりをよくぞ毎日。店に戻ってからの仕込み、本営業、店仕舞いを考えると、いつお休みになっているのか。簡単には想像できない裏のご努力が毎日たくさんあるのだと思います。頭が下がります。そのためお料理は毎回(毎日)変わるのですが、お弟子さんが鰹節を目の前で削ってくれる“命の出汁”は毎回やってくれます。この鰹節は鹿児島枕崎のもので、片折さんの特注(なのでここでしか味わえません)。これがとても印象に残ります。まるで天女の羽衣のように薄く透明感のある、たおやかな鰹節。削るごとに香りも立ち、日本人としてのDNAが反応する。一本釣りなためストレスがかからず、酸味が味に出ないのも特徴。能登の“藤の瀬の霊水”で40時間水出しした昆布に合わせて。昆布は利尻まで足を運ばれて一等品を確保されたそうです。
大将もどんどん意気揚々とされていて、もう自分スタイルを掴みきったのではないでしょうか。全国・世界の食通が金沢に来たら必ず行きたいお店になっています。
※これまで写真は不可だったのですが、もう解禁とのこと。しかしこの雰囲気を壊したくないので音無しで撮影。
【紹介項目】
・2019年12月6日 冬、カニの回 (8度目の訪問)
・2019年10月18日 秋、松茸の回(7度目の訪問)
・2019年8月9日 夏の回(6度目の訪問)
・2019年4月20日 春の回2(5度目の訪問)
・2019年3月23日 春の回(4度目の訪問)
・2018年12月23日 冬、カニの回(3度目の訪問)
・2018年10月20日 秋、松茸の回(2度目の訪問)
・2018年9月25日 秋の回(初訪問)
(最終訪問 2019年12月6日、全8回訪問)
2019年12月6日 冬、カニの回 (8度目の訪問)
この季節の主役はカニ。昨年2018年のカニが素晴らしくて今年も楽しみに伺った。
もちろんカニが主役なのだが、それ以外の冬食材も今まで味わったことのない珠玉続きで、予想以上の回に。
お酒は、数馬酒造「NOTOプロトタイプ」。この酒は、石川県が開発した酒米68号を使って仕込んだ酒。金沢では片折さんでしか取り扱いがないはず。さらに手取川の大辛口を。
●すっぽんおかゆ
片折さんで最初に出してくれるおかゆ、まず最初に胃を撫でてくれるようで好きです。なんだか体が軽くなる。この時期はすっぽんのおかゆ。
●蕪と氷見あんこう お吸い物
あんこうは通常は独特のクセがありますが、これは全くくさみなくて味噌や醤油の味付けをしなくてもよい、凛としたあんこう。あんこうの無垢な味が黄金の出汁に寄り添う。面の広いあんこうを頬張る喜び。知らなかったこんなおいしいあんこうの味。
●氷見クエ
●能登島 迷いガツオ能登島
つやっと輝く断面に、まずは間違いない美味しさを宣言されているよう。
香ばしい皮目の薄いパリっとした食感を感じてからの、とろけるような身の柔らかさ。サーモンのミキュイのような口どけだ。さらに皮目と身の間のゼラチン質が溶けて口の中でじゅわっとなる。目尻の下がる美味しさ。
●あん肝
酒蒸しにしただけというあん肝。ムースのように軽く美味。
●氷見 海鰻
これはヤバイやつ。年に1度あがるかどうかという海鰻を幸運にもこの日引き寄せる。よく知っている身のふわっとした鰻の食感とは全然違う、野生的と言える弾力のある噛みごたえ。この妙味。印象に残る。
●越前蟹
さぁさぁ主役のカニが登場。その日の最高のものを準備してくれるのが片折さんらしく、石川県の加能ガニだと水槽しかいないタイミングだったそうで、それは立派な活「越前蟹」を準備してくれた。食い入るように見る興奮気味の私。今年もカニ解禁日から既にたくさんカニを金沢で食べている私だが、これは間違いなくナンバーワンのカニだ。
暴れまくる元気なカニを、片折さんが鮮やかな手つきで目の前で捌いてくれる。元気すぎて自ら、ブランド証明の黄色いタグも切ってしまうくらい凶暴らしく予測不能のハサミの動きが怖い。片折さんは嬉しい表情と真剣な表情を交互にのぞかせる。
まずは焼きガニにて。殻のまま焼くことで蒸し焼きのようにし、絶妙な火入れで、まるで艶やかなシルクのような身。みずみずしく、てろんと舌に滑り込んでくる。一呼吸おいて立ち上がる甘さと潮騒。絶品だ。
●ふろふき大根
煮含めなどにせずとも今はお大根のいい季節なので、できるだけシンプルが一番とふろふきで、柚味噌をのせて。繊維もきめ細かく美味だ。
●カニ味噌ディップで
カニ味噌を入れた甲羅を炭火にかけ、ふつふつと温まったところで、蟹の爪と蟹足をソースのようにディップ。先ほどのシンプルな美味しさに奥行きが増す。とはいえ研ぎ澄まされた美味しさ。思わず天を仰ぐ。
●里芋田舎煮
今回は金沢無農薬農家MEGLIY(めぐりー)さんの里芋で。ニボシをベースに炊いていて、いい香りがします。
日本人なら誰しも懐かしみをおぼえるお馴染みの料理を、片折さんが秀逸に仕上げることで、日本人のアイデンティティを再確認し誇りを持たせてくれる。矢口永寿さんお弟子さんの器で。
●お食事
今回は4つの顔で楽しませてくれました。まずは銀シャリで。お米は氷見のコシヒカリ一等米。卵は、かほく市西山愛鶏園さんのもみじたまご。
お次は、ほぐした越前蟹をのせたカニ飯で。中にカニ味噌を忍ばせてあるのがニクい演出。
お次は、なんと鯖寿司。氷見で今朝あがったばかりだという鯖は、その鯖のフレッシュな美味しさが活きている。海苔の部分を持ってふた口で。
さらに香箱ガニご飯。ズワイガニのメスである香箱ガニは、外子の食感と内子の美味しさが混ざり合い、満腹でも入ってしまう。しかもおかわり。
●葛焼き 湯涌の柚子
最後の一品。焼きたての葛焼きは手で掴んで。きつね色に焦げる表面は見るからに香ばしくてそそられる。はふはふと言いながら口にする喜び。柚餅子のようなコク、湯気とともにふわっと軽く持ち上がる。今日も片折さんは最後まで手抜きなしの全力だった。
2019年10月18日 秋、松茸の回(7度目の訪問)
この時期の片折といえば能登松茸。昨シーズンの松茸がパーフェクトワールドで、昨年食べられた方はそれをもちろん期待しちゃうわけなのですが、今シーズンは松茸が裏年なのかどこのお料理店さんにも入っておらず「今年は全然ダメですねぇ」という声しか聞こえてこない(出てきても長野県産)、ですが、この日は運もあってかもしれませんが、片折さんの大きなご努力の甲斐あり地物の能登松茸が準備されていて度肝抜かれました。
今年はさすがに片折さんでも食べれないだろうと思っていたので、ほんと夢みたい。馳走を駆け巡って珠洲の松茸を準備をしてくれた。なんたること。(ちなみに翌日は大雨もありゼロだったらしい)
手取川古古酒を初代徳田八十吉の徳利にて。さらに能登町数馬酒造「NOTOプロトタイプ」を。
●昼どれ珠洲松茸おかゆ
この先付はまず松茸のおかゆ。風味が鼻腔をくすぐり、喜びで胸がいっぱいに。温もりがとくとくと食道を伝わり胃袋を優しく優しく撫でてくれる。
●お吸い物
椀蓋を外すと命の出汁に加賀れんこんが鎮座。この潔さ。気持ちいいほどシンプル。削ぎ落とした美味しいがここにある。レンコンの下には、今では稀少になってしまった七尾の沢野ごぼう。大地の風味と、極太なのにやわらかい繊維に驚くはず。根菜のコンビネーション。
●氷見クエ
今日の氷見のクエは、片折さんのテンションの高まりが溢れて伝わるくらい最高のもの。岸田シェフの「人生最高のレストラン」で片折さんが取り上げられたときに出ていたのが立派なクエでしたが、それに匹敵するものらしいです。えんがわ寄りの部位。こんな絶妙に良い脂がのったクエは食べたことがない。たおやかな身に立ち上がる聡明な旨味。山葵は白峰の。
少しチャーミングさも漂わせる器は、九谷焼に新風を吹き込んだ陶芸作家と言われる北出塔次郎氏の作品。
●茄子と福井県の赤ウニ
金沢市安原の茄子、福井県の赤ウニのおいしさ。
●焼能登松茸
目の前で炭火で焼いてくれるのを見守りながら待つのも至福の時。胸いっぱいに吸い込むとクラクラするくらいのいい香りはたまらない。ああ、美味しそうだこと。部屋中に満ちるこの香りでお酒をチビリやりながら。
昨シーズンはホイルで蒸焼きにしていたのですが、今年は松茸の状態で調理を変えて、切り込みを入れて炭火焼きにし、割いていきます。
能登松茸は他県と比べて結構荒々しい地形で採れるらしく、そのためか食感シャキシャキ。
塩は角花さんのを挽いて粉状にしたもの。食べるときに指でつまんでサラサラと。
シャクシャクとした食感と、松茸から溢れるジュを全身で迎えに行く。角花さんの塩で旨さに輪郭が出る。
●氷見テッポウカマス
●クエの酒蒸し
先ほどのクエ、こちらは胴のほうを。天然のシメジの歯応えの妙。シャクシャクと絶品。シメジってこんなに美味しかったっけ。
●氷見里芋田舎煮
原種の里芋を田舎煮に。ニボシをベースに炊いて、里芋の持つ大地のパワーが活きる味の入れ方。矢口永寿さんお弟子さんの器で。
●自家製ひろず
●お食事
お米は氷見のコシヒカリ一等米。卵は、かほく市西山愛鶏園さんのもみじたまご。おかわりでは、蒲焼き風ののど黒を贅沢に。これはおかわりするよね、間違いなく。
●水菓子
富山呉羽梨、能登黒豆
●栗きんとん
能登宇出津の栗をしっとりした栗きんとんに。器は中村錦平さん。
2019年8月9日 夏の回(6度目の訪問)
最初に通される待合にかかるのは日本画家 中村宗弘さんの作品。真夏日にこの“樹林”が山からの風を吹かせ、室温が下がった気がする。まずは玄米を煮出した香ばしいお茶、そして青梅を。
カウンター席に移動して、お酒の前にお茶を。お茶も氷見産で嬉しい。
●氷見のハトムギ茶
お酒は勝駒、手取川大吟醸古古酒を。
・魯山人
・イギリス18世紀のアンティーク
「昔はこれで何を飲んだのだろうか」という背景を想像するのも楽しい。
●先付
金沢の伝統野菜“加賀野菜”のひとつ“ヘタ紫なす”の薄い皮を美しくつるんと剥いた煮浸しに、福井小浜の赤ウニ。端正な一品から幕開け。
●お吸い物
桐の花の蒔絵が施されたお椀。椀蓋を外すとそれは美しい純白のオコゼがゆらゆら朧げに咲く。舌触りも花びらのように繊細。雅な薄甘さに特製出汁がスッと溶け合う。
●能登島アラ お造り
●新湊 青バイ貝
食べ歩きをしていると珠玉の食材に出会うことは、ありがたい事に多いが、“素晴らしい食材を一番最高の状態で”とか“その中でも一番おいしい部位”に出会わせてくれるのはそれらを熟知した料理人さんの経験値と腕あってこそである。特大の青バイ貝、今回食べさせてくれたのは芯の部分。「え?そこだけ?」という贅沢な使い方だが、なるほどこの妙味に驚いた。サザエのような噛みしめるコリコリ感とも、蒸しアワビの歯が喜ぶ柔らかさとも違う、表面はバイ貝らしいつるっとした光沢があり、ひんやりした舌触り、厚み、シャクっと優しい弾力と歯切れの良さを感じて、清らかな天然の甘さが立ち上がる。絶品だ。
大樋焼馬上盃(ばじょうはい)にて。この高台の高い器は、昔、馬の上で盃を交わすために作られた酒盃で、高台を握って持ち酒を飲んでいた。馬上盃と書いて“ばじょうはい”と名が付いている。楽焼の手法の伝統と格式を守る「大樋焼」と言えば、飴色の釉薬が特徴だが、こちらも大樋焼。焼成温度を高くして焼いているそうだ。
●新湊 白えび、アカイカの子 おこわ詰
美しい白えび。これだけ粒揃いの白えびを数そろえて、綺麗に剥き身にするのは大変なことだ。子を離す前の今が、ちょうどおいしさMAX値のときだ。ねっとりした甘さ、美味なり。
●氷見 岩牡蠣
●氷見産天然天草の自家製心太
さすがお料理店さんの心太は美しく品あり、ひと味もふた味も違うが、能登では自家製で作るので懐かしさも込み上げ心でも味わった。あぁ嬉しいなぁ。すだちの輪切りも一緒に頂くと、酸味が弾けて涼しい。
(一品撮り忘れ)
●湯涌 鹿 たたき
●焼きトマト
●お食事
お米は氷見のコシヒカリ一等米。思わずありがとうと言いたくなる美味しさだ。卵は、かほく市西山愛鶏園さんのもみじたまご。
●胡麻豆腐
2019年4月20日 春の回2(5度目の訪問)
過去、秋の松茸の回が宇宙で、冬のカニもパーフェクトワールドだったため、主役級の食材がないと思われる春は一体どうするんだろうか。という少しの疑問がありましたが、それを完全に払拭。春先の回も素晴らしかったので、春の訪問2回目(笑)計5度目です。
前回3月23日に伺ってからあまり期間が空いてないので「お料理そんなにガラッと変わらないですよ。かぶる料理もあるかもしれません。すみません。」ということでしたがこちらとしたら全然かぶっていいので「それも嬉しいです。」という回答していたのですが、全然かぶってないし、食材共通なものありますが調理法や味の添え方が違っていて全部新しく感じられました。
●新玉ねぎ
金沢市安原の荒川さんの新玉ねぎからスタート。神々しく輝く純白の玉ねぎ。つるんとしていて淡く澄んだ味わいで、そこはかとなく立ち上がる甘味に出汁が溶け合う。
●お椀 鮑
お吸い物は例によって鰹節を削るところからやってくれる命の出汁で。宇出津の立派な鮑を目の前でさばくのを拝見済み。柔らかく美味なのは言わずもがな、天国だ。能登島のフキの禅味で引きしめる。
●オコゼ
雪解け水を思わせるような美しい造り。1日熟成させることによってアミノ酸値が良い感じに。ウルイとウドを添えて。
●能登トラフグ
能登の天然トラフグに裏ごしした白子をかけて。なんだか白無垢みたいな美しさだ。
●カタクリの白和え
春、人知れず密やかに咲き誇るカタクリ。根にパワーを溜め込み、花は繊細だけど生命力を秘める。その姿が脳裏に浮かんだ。春の息吹を感じる。しみじみ泣ける味。
●のど黒
箸を入れるとジュワッと脂が溢れ出す。この美味しい脂が口の中にほとばしる。口の中から喉に落ちてゆき、口喉胃袋の全部でうまさを感じる。
●七尾の鳥貝
ヴィーナスが誕生しそうなくらいの、それは立派な鳥貝だった。金額にするとこれでけっこうするのではないだろうか。肉厚の鳥貝を備長炭で軽く炙って香ばしさを添える。
●新湊ホタルイカ
なんと今回は活ホタルイカ。目の前でピューピューと水を吐き出すほど元気だ。たまらない。目と口を手際よく抜いて、素出汁で軽く茹でるとぷっくりぽんぽんに。氷見の菜の花に黄味酢。春の色がパッと目に鮮やか。
●ふぐ唐揚げ
ふぐの唐揚げは大好物だけど、良いふぐだからこその別格なうまさを教えてもらった。おいしいエキスが飛び出す、なんてジューシーなんだ。ヒレ酒と共に。
●鰯つみれ
鰯のいい時期だ。このつみれ碗は、片折さんが修行時代よく作っていたそうで、思い出の一品でもあるようだ。
●七尾鱒
七尾の鱒に今回はセリの出汁餡。出汁餡のまろみにセリの苦味がのる春の二重奏。ああ、おいしい。
●お食事
お米は氷見のコシヒカリ一等米。おかわりは卵黄をかけ、削りたての鰹節をはらりとのせてくれる。日本人が慣れ親しんだ、情のある味の洗練。うまい。
●胡麻豆腐
最後はきな粉がけの胡麻豆腐。
一刻一刻と移ろう春の刹那を、静かに静かに感じ取るような回だった。心くすぐられた。
2019年3月23日 春の回(4度目の訪問)
片折さんにハマってしまい4回目の訪問。
●イサザがゆ
まずはピチピチとグラスの中で跳ねる活イサザが調理台に準備されていたので、(能登生まれの私は)春の風物詩に「あぁこの季節か」としみじみ。これをサッと釜揚げにして氷見のコシヒカリ一等米のおかゆにのせて“イサザがゆ”として。ぷっくりつるっとした舌触りが実に美味。小さい身が全身で春を教えてくれた。淡い妙味で幕開け。
●クチコ椀
ナマコから出したばかりのてろてろの艶っとしたクチコ(卵巣)が大椀にたぷたぷと準備されているのがまず最初の驚きだった。これを目の前で(フライパンで)焼いて、さらにそれがお椀として提供されると言う前代未聞な流れにも驚き。
七尾はナマコの産地として有名だが、あんなにたっぷりの生クチコは料理店では出会えるものではないし、加工場では干クチコに加工すること前提なので塩を当てるけどこれは生のまま(かなりの値がついている三角形の干クチコをご存知のことと思う)。椀蓋を外すと出汁の中にたゆたう焼クチコ団子に心踊る。ナマコの町で育ったけどこんな料理初めてだ。それは口の中でほわほわとほどけ、出汁のまろみと完全に一体となる。ほのかに感じる潮騒と苦味。豪快だが極めて繊細な一品。
●能登トラフグ
フグだとは思えないどデカさのフグ、しかもトラフグの登場。5キロはあるらしく、視界から無視できない存在感バリバリ。能登は天然フグの漁獲量が実は日本一だが、魚種が多くて、例えばマフグやゴマフグなど8種類ほどがとれる。トラフグは珍しい。しかもこんな立派なトラフグを仕入れられるのはすごい。漁師さんとの信頼の高さを伺わせる。
刺身にするときはメスのほうが向いているらしく、これはメス。うらごしした白子をソースのようにかけてあり純白で眩しい。3日寝かせて旨味がMAX値で食感も良い。
●七尾ボタンエビ
片折さんには何でも最上級品が揃っているのでいちいち驚きがあるが、こちらも立派なボタンエビだった。春蘭を添えて。添え物まで手を抜かない、仕事が綺麗で惚れ惚れする。
●あん肝
低温蒸しにしたアンコウの肝が、これまたがドーン!と登場し、おおおお!となったが、提供されるのは一番おいしい限られた一部だけ。心の中で「まじか!」と叫んだ自分がいる。まずはみずみずしく美しい珊瑚色にうっとり。食感はやわらかいを通り越して、スッと消えるような軽さに驚き。“夢”みたいな味だった。
●青バイ貝
氷見の青バイ貝は通称“薄バイ貝”とも呼ばれるらしいが、とにかくサイズが大きく、そして殻がとても薄い。手でクシャっと割れるくらい薄いのは、金沢のバイ貝とは全然違う。身はうすく引いてあり、甘さがほとばしる。
添え物の壬生菜は胡麻和えで。胡麻は目の前で炒って擦ってくれたので、食べる前から香ばしさが舞う。
●若芽、アワビ
椀蓋を外すと潮騒に鼻孔をくすぐられた。若芽に覆われているのはアワビ。かなり立派なアワビだったし、アワビって見た目が強そうだから、(視覚の印象とは真逆の)目尻が下がるようなやわらかい食感にうわ!っとなった。アワビを覆っていた若芽のシャクシャクとした食感が良いアクセントだ。
●ホタルイカ
朝どれのホタルイカが、泳ぐように器に盛り付けてあった。そのホタルイカの目と口を手際よく目の前で取り始める大将。足が早いホタルイカは事前に下ごしらえすると痛みが早いことからこのようにしてくれている。それを出汁にくぐらせると、ぽんぽんぷりぷり。ぷっくりなったホタルイカは口に入れるとぴゅっと中からエキスがこぼれる。うまい。目を閉じて味わった。
●焼きフグ
冒頭から漬けにしてあったフグの切り身。こちらはオス。目の前で炭火で焼いてくれた。焼きフグは焼き過ぎると鶏肉のようになってしまうので、火入れが命。目を光らせる大将。中が均一にみずみずしい最高の焼き加減だ。
添えてくれたヒレ酒がまたうまいこと。ヒレ酒飲んでるけどこんなうまいヒレ酒は初めてだ。ヒレの焼き方が均等でムラがないのが良いんだろうなぁ。
●七尾鱒
お料理最後は七尾の鱒の揚げたものにカブラのみぞれがけ。焼いた蕗の薹を添えて。カブラは片折さんがご贔屓にされている金沢市安原の荒川さんのカブラ。これは本当に絶品だ(後記)。立派なカブラをお弟子さんがすり下ろす。甘く香り高く美味。
●お食事
信楽焼 中川一辺陶さんの御飯鍋がまた目を引く。ツヤツヤの氷見コシヒカリ一等米。一杯目はシンプルに銀シャリで、二杯目おかわりは梅茶漬けで。お味噌汁はボタンエビの頭入りで良い出汁が出ている。
●いちご大福
水菓子は作りたてのいちご大福。隠しきれない立派ないちごにそそられる。なんだか雪山のようないちご大福。求肥の上の方にはこしあん、イチゴの高い糖度にマッチ。
2018年12月23日 冬、カニの回(3度目の訪問)
(※写真不可な回だったので写真はありません。)
片折さんにハマってしまい、秋冬で3回目の訪問。秋の松茸づくしの次は冬の蟹づくしです。
白子の先付け、お次は香箱蟹という冬の美味で幕開けし、もうここで既にハート掴まれてたわけなんですけど、目の前に登場したのは、今回の主役である加能がに(ズワイガニの雄)。まだ生きていて暴れるほど元気なやつを、目の前で捌いてくれる。活カニを目の前で捌くところまで見せてくれるお店はあまり無いと思う(少なくとも金沢には無かった)。「おおおお!」と言わずにはいられない。手際よく捌く大将の目も輝いており、どこか意気揚々としていてこちらも嬉しくなる。
お吸い物は例によって鰹節を削るところからやってくれる命の出汁で。椀種は、一等の新大正もち米で作ったお餅の干口子射込みで、カニ身も惜しげなく太い足が一本。さらに沢野ごぼうも添えてあった。沢野ごぼうは七尾のブランドゴボウで、極太なのに繊維がきめ細かでやわらかく、いつものゴボウとはまるで違う食感。
お造りは能登の天然トラフグにあん肝を添えて。身はもとより、皮の部位も美味なのには驚いた。今まで食べてきたテッピとは別物の、歯が喜ぶようなソフトな食感だ。
お次は目の前で蟹足を炭火焼きに。切れ目は入れずに殻そのまま。こうすることで言わば蒸し焼きになるため、身はみずみずしく“とぅるん”としていて絹の舌触りだ。迷い鰹の炙りを一皿を挟んで、炭火には、かにみそがたっぷり入った甲羅がかけられた。ふつふつと温まったところで、蟹の爪と蟹足をソースのようにディップ。贅沢の極み。説明不要のおいしさ。英語でいうならHEAVEN。さらにさらに、ほぐした蟹身をシャリにのせたおすし。もう「参りました」ですよこれは。
お食事前に、金沢市安原の荒川さんのカブラ。シンプルにふろふきに。これがまた吐息が漏れるような美人で、繊維がきめ細かく風味よく美味。きっと我が子のように大事に育てられたんだろうなぁということが伝わった。お食事は氷見のコシヒカリ一等米で、美しく光輝いていた。食後はお抹茶と穴水の栗を揚げたもの。最後まで手抜きなしの全力。
全ての季節通いたくなるのが正直なところだし、価格は金沢のお店では高いが、こんな料理東京で食べたらお会計こんなもんじゃないと思う。そして他より高くても価格に対する満足度は大きい。金沢の誇りだ。オススメしたい。
2018年10月20日 秋、松茸の回(2度目の訪問)
(※写真不可な回だったので写真はありません。)
今回のメイン食材は能登の松茸。最初に通される待合からカウンターがちょっと見えるのですが、席前に鎮座する立派な松茸の山に一気にテンションが上がる。気持ちがかき乱されてニヤけてくる。「何だあのすごいのは」これらは能登の松茸名人さんが採ってきた松茸で、思わず拝みたくなるような神々しさ。山になっている松茸の手前にはスッと伸びた白マツタケも一本。中も純白で眩しいくらいだった。
ちなみに今回は食材だけでなく、店主もスコーーーンと突き抜けていて、一線を画した素晴らしい回でした。(ただ、松茸は自然のものなので入手できない日もありますから、前日のお客さんには松茸は提供できなかったそうです。地物の良いものにこだわっているだけに、毎日納得するものを仕入れるというのは、相当な緊張感があるでしょうね。)
まず最初の一品は松茸のお粥から。提供されてすぐ食べてほしいとのことで、後の方を待たずに頂きます。薄くスライスした松茸を軽ぅく火入れしお粥に合わせて。塩は引くに引いて、五感をすり抜けそうな淡さ。そこから時間差で立ち上がってくる、優しい甘さに胃袋を撫でられてスタートとなりました。
お次は黄金蟹の真薯のお吸い物が登場。かと思いきや、こちらもつなぎは引くに引いてほぼ黄金蟹を寄せたものでとても繊細なものでした。お吸い物は例によって鰹節を削るところからやってくれる命の出汁で。このベースの昆布出汁のたおやかさに、黄金蟹の絹のようなとろんと滑らかな舌触りが合わさってそのまま喉へ滑っていく。目を閉じて浸った。大きな松茸も嬉しい。
お造りはキジハタ(ナメラ)にアオリイカ。もちもちとしたキジハタの美味しいこと。けんは大根ではなく、生のマツタケを1寸の針にしたもの。
そして、“何か”がふんわりと包まれた大きなホイルが人数分登場し、目の前の七輪にのる。しばらくして火から外されて登場したのはこちらも松茸。松茸はそのまま炭火焼きにするとたしかに香ばしく美味しいが旨味が落ちる。こうやって“ジュ”まで味わい尽くすとなるとホイル焼きが一番だ。シャクシャクとして歯ごたえも美味。なるほどなるほど。
松茸づくしの流れにここで牛が登場。能登牛ではなく、店主の故郷の氷見牛で、湧き水と酵母を加えた飼料で育てられているそうで、こんなピュアな味わいの牛は食べたことがないってくらいピュアで驚き。シルクの舌触り。干ぜんまいと湯涌の胡桃の白和え。ほのあたたかい胡桃の口当たりの心地よいこと。優しく寄り添う野趣がまた良い味となる。なんとなく懐かしさも湧き上がる、思い出まで味付けにした一品。すっぽんのスープはすっぽんの存在はないのに、すっぽんが堂々と存在感を表した豊かな美味しさ。揚げ物は、カマスの天ぷらに天然ナメコのあんがけ。さらに松茸を散らして。
お食事は氷見のコシヒカリ。自家製イクラをのせて。膜の柔らかさも絶妙で皆おかわり。誰かが言い出した「これが究極のたまごかけご飯だねぇ」という一言に「なんて贅沢な」と笑いがこらえきれない。
また、最後の棒茶も目の前で煎ってくれましたが、こういう演出いいですね。和の香りって、やはり日本人としてのDNAがそわそわします。菓子は本物のわらびもち。最初から最後まで本物で通してくれるのはやはりここの価値。八尾のきなこがけにしたものを目の前のまな板で切って。もちもちとかみずみずしいとか、そういうのはなんかもう野暮な表現で、自分の細胞にスッと寄り添ってくれそうなデリケートさ、奥深い妙味に感謝すら覚えた。
素材の骨格を出すには塩が必要だが、ギリギリまで引いたところに見えてくる景色もあることを教えてもらった。
片折さんはこのまま「どこまでいっちゃうんだろう」と期待させてくれる、予感させてくれるからだろう、既に何度も通っている人が結構いる。
2018年9月25日 秋の回(初訪問)
(※写真不可な回だったので写真はありません。)
2018年9月下旬に頂いたお料理は、蓮豆腐、黄金ガニ真薯、天然鰻、マコガレイお刺身、白甘鯛揚げ物、地物ノドグロ焼き物など。お食事はマコモごはん。テングサから作った寒天黒蜜がけ、輪島の栗の自家製栗きんとん。見た目に飾りっ気なくとってもとってもシンプルで、引き算をして削ぎ落とした感じです。華やかな八寸や盛り込みもありませんから、お皿の上の食材とその味で季節を感じとります。椀種の真薯は黄金ガニ。黄金ガニは紅ズワイとズワイガニのハーフで1000匹に1匹とも、1万匹に1匹とも言われる幻のカニですが、この日はなんと上がったばかりのものを準備してくださいました。焼き物の鰻は日を逆算して3日間温度管理をして提供。百合根は北海道の帯広の農家に見に行かれたそうです。