「来人喜人 はぎ原」メイドイン富山が詰まった日本料理店。スペシャリテの究極ます寿司は絶品!移築したお茶室も素晴らしい

料理: 7.8 その他: 7.8 ポイントについて
来人喜人 はぎ原 (きときと はぎわら)
営業時間 12:00から一斉スタート、18:00〜22:30(昼夜共に要予約)
定休日 日曜(翌日が祝日の場合は営業)
価格帯 昼コース(11,000円)、夜コース(22,000円) ※キャンセルポリシーあり
訪問回数 5回

富山市堀端町にある日本料理店。店主萩原豊さんは富山の地元食材をはじめ、器も富山の陶芸家や作家さんにこだわっており、富山の風土や生産者さんの顔、人々が紡いできた営みまで料理から見えてくるようです。この度のミシュランガイドにて1ツ星を獲得されたことで、ますます注目度が高まるはず。
萩原大将は、より一層精度を上げていくために、2021年6月からはディナーの席数は限定して営業しています。
・「ミシュランガイド北陸2021 特別版」1ツ星獲得(2021年5月19日発表)

同店は、2011年6月に富山駅前で創業し8年営業され、2019年7月からここ堀端町に移転。以前の店舗よりも広さが5倍以上ということですが、移転先にこの場所を選んだ大きな理由に挙げられるのはお茶室だそうで、なんと富山桜木町にあった頃の料亭金茶寮のお茶室がここに移築されているんです。店内の敷地内に“離れ”としてお茶室があるなんて素敵です。

カウンター席から厨房を見上げると、富山湾と立山連峰を描いたステンドグラスが端から端まではめ込まれていて、パノラマで連峰を眺められます。

はぎ原のスペシャリテ
コースの中で特に注目なのは開業からずっと出しているというオリジナル“ます寿司”。スペシャリテです。ご存知“ます寿司”は富山の郷土料理として有名で駅弁として広まりお土産として購入する方も多いですが、このます寿司は、地元の食文化を教えつつ、スペシャリテがなんたるかを今一度教えてくれます。「あのます寿司がまた食べたい」足を運ぶ理由のひとつにもなるおいしさ、それが“はぎ原のます寿司”。鱒とご飯の間には、鱒の子ととろろ昆布が挟んであります。なるほど、鱒の子の魚卵のおいしさが肝で、コクがありとろっとした魚卵が卵黄のような役割を果たし、ご飯に溶け合い全部をまとめ上げておいしい余韻が残る。レストランでないと提供できない繊細な“料理”。
食べる直前に“はぎ原”の焼印を押し、醤油の泡を添える。この焼き印はオリジナリティーを出すためだけではなく、香ばしさを添えることにも一役買っています。この不思議な形をしたプレート皿は富山県の形で、越中瀬戸焼の吉野香岳さん製 “TOYAMA 皿”。

2022年3月9日(昼)ホタルイカ、鹿しゃぶすき

初の昼訪問です。昼の営業では、夜よりも気軽に訪れることができる少し軽めの皿数とお値段設定です。はぎ原さんのスペシャリテである“ます寿司”は昼のコースには付かないので、少し残念だなーと思っていたのですが、考えられた内容で大満足でした(もちろんます寿司食べたいので夜も来ます)。食後にお茶室へ移動してのお点前も昼コースでは無しです(お抹茶は出ます)が、コンパクトにはぎ原さんの魅力を凝縮させてあってとても良かったです。
今回食材で嬉しかったのは、富山の春の風物詩であるホタルイカの活。これが出てくると春が来たな〜ってなります。

●前菜
桃のお節句のしつらえ。
若ごぼうと薄揚げの煮浸し、村雨たまご、真子旨煮、カラスミと独活、鰤の生ハム、菜の花、氷見ナガラモ

●お吸い物 蛤真薯
高岡漆器の螺鈿の光沢が美しい。吸地は潮仕立てで、真薯から貝の旨味が溶け出して、グラデーションを描きながら濃厚になってゆきます。


●お造り
滑川ひらめ・肝、滑川ホタルイカ昆布締め・ワタ蒸し
お醤油、滑川の海洋深層水のポン酢で
ホタルイカは捌いて肝を取って軽く昆布締めに。ワタは蒸して別添えで。

●ホタルイカ釜揚げ
まだぴちぴちと暴れるホタルイカは、明かりを落とすと足の先端が蛍光ブルーに発色します。ホタルイカ漁で海が幻想的に輝く景色を想像。
これを目の前で釜揚げにして、熱いうちに手早く目を取り除いて黄身酢で。まだ時期的に身が小さいですが、ぷっくり膨れたホタルイカの中からピュッと肝が飛び出し、濃厚なソースのように味を添えて美味しい。


●鮟鱇 炭火焼き、プチペール、金柑
鮟鱇の骨まわりの身は、プリッと跳ね返す弾力があって、旨味が骨太でうまい。添え物の、揚げたプチペールも旨味に輪郭が出て美味。

●鹿 八尾 すきしゃぶ
卓上コンロの鍋は萩原大将の定番で、中でも豆乳鍋が大好評です。今回は、鹿が入ったとき限定のすきしゃぶでしたが、こちらがまた美味しくて新たな魅力発見でした。

薄くスライスした鹿ロースを、すき焼きスープでしゃぶしゃぶと。スープは上品な甘さなので、あっさりとした大根おろし入り卵黄がよく合います。

〆には、キリッと冷水で締めた氷見うどんを鍋に投入。この出汁に相性良いし、口の中にちゅるんと滑り込んできてピチッと跳ねる。


●酒粕アイス・せとか・よつぼしいちご、紫芋あん最中、お抹茶
酒粕アイスは、富山の銘酒“勝駒”の酒粕を使用。

昼からちょっと贅沢な気持ちにしてくれるコースでした。

2021年9月11日 滑川のど黒、花オクラ、鱧豆乳しゃぶしゃぶ

秋の訪れと、刻一刻と移ろう日本の季節の刹那の美を感じさせてくれるお料理でした。

●前菜
濃萌黄が映える虫籠にて秋の前菜が登場。なんだか、リーンリーンと鳴き声が聞こえてきそうです。添えてあるススキも夏から秋への移り変わりを教えてくれます。

籠を外すとススキの葉で折った鈴虫を発見。これは大将が1つ1つ折ったもので、細やかな演出に嬉しくなります。

万願寺唐辛子とジャコの和え物、カラスミ、里芋の衣被、銀杏、鱧の子のレモン流し、水タコ南蛮漬け
一品一品に丁寧さが感じられる盛り込みです。

●ます寿司 スペシャリテ

●お吸い物
中秋の名月のお月様を月豆腐として椀種で。重陽のお節句の菊の花、黄色と紫が美しいですね。

●滑川アラ

●滑川のど黒
皮目に炭を押し当てることで焦げ目を付けて香ばしさを添える。美味しい脂も滲み出してレア感も残す。
食用花は、富山県南砺市の千華園さん。

●魚津毛蟹

●入善鮑 フライ肝ソースがけ

●池多牛
富山の池多ファームさんの牛に卵黄の天ぷらをのせて。
池田牛は、飼料は自家製産にこだわり、県産のコシヒカリの稲わらや遺伝子組み換えなしの配合飼料などを与えて育てています。その池多牛をすき焼き風の味付けで、卵黄の天ぷらは箸を入れると卵黄がソースのようにとろとろ流れ出てコクを加える。

●花オクラの酢の物
通称花オクラと呼ばれる、和紙作りに使用するトロロアオイの花を酢の物として。立山町で大将が摘んできたものだそうです。薄黄色のひらひらとした大きな花弁が特徴的で、オクラと似ていますが、オクラと花オクラは別物で、花オクラの果実は硬くて食べられないそうです(花だけ食べます)。

とろとろとした薄い花弁が何枚にも重なっていて、咀嚼すると粘りが出てきてつるんとした舌触りと食感が面白い。繊細な妙味。

●豆乳鍋 鱧
毎回楽しみなはぎ原さんの豆乳鍋は、卓上コンロでしゃぶしゃぶをしながら楽しみます。メイン食材は季節で変わり、今回は鱧でした。出汁は豆乳でミルキーだがあっさりうまい。
食材からの旨味が出て煮詰まってきた豆乳スープには、ラーメンを投入して、2度美味しい。



●太刀魚ご飯


●デザート
大沢野の白イチジクや呉羽梨など、秋の富山の果実を堪能できるデザート。

この後はお茶室に移動して、店主のお手前でお薄を頂いて終演となります。
明かりは和蝋燭だけという、昔の光でお茶を頂けるというのも情緒があって素敵なのです。

2021年5月31日 滑川ヒラメ、魚津トラフグ、白海老ご飯

初夏らしさを感じる料理の数々。締めくくりの白えびのご飯がとても印象的でした。さらに、食後のお茶席が心豊かになる一時でした。

●前菜
トラフグポン酢和え、カラスミ、アサリの卯の花、小茄子田楽、一寸豆の塩茹、鴨ロースの芽ネギ巻き、岩モズク

●スペシャリテ オリジナルます寿司
何度食べても美味しいと思う、自他共に認めるスペシャリテ。



●お吸い物 アスパラの葛豆腐、甘鯛
アスパラは太白油で炒めてから葛豆腐にしているので、アスパラの主張がしっかり感じられます。青い風味が引き出されている。

●滑川ヒラメ
透明感のある美しいヒラメ。お醤油か、滑川の海洋深層水を使った塩昆布水で。器は矢口永寿。

●魚津トラフグ藁焼き
フグは北陸は5月が良い時期。器は三代 須田菁華。

●鮎魚女
どっしりとした力強さと味わいのある器は、なんと魯山人。鮎魚女はもろみ味噌を添えて、蕨のかき揚げと。

●炊き合わせ
鯛の真子と白子、すすたけの炊き合わせ。器は初代 須田菁華の金襴手。


●魚津トラフグ
3キロのトラフグを炭火焼に。骨まわりの身のおいしさよ。付け合わせは山葡萄新芽天ぷら。

●池多牛の豆乳鍋
はぎ原さんのコース終盤で楽しみなのがこの豆乳鍋。牛肉は、通称“池多牛”と呼ばれている富山の池多ファームさんの牛。飼料は自家製産にこだわり、県産のコシヒカリの稲わらや遺伝子組み換えなしの配合飼料などを与えています。
池多牛を豆乳に泳がせるように火入れして、新玉ねぎとクレソンと共に口に運ぶ。ほちゃほちゃ滑らかな池多牛に優しい豆乳が寄り添います。


牛を食べ終えたら、ラーメンを締めとして入れてくれます。濃度を増した豆乳に麺が絡み二度おいしい。まろやかな味わいスッと整える黒七味も良い。

●白海老ご飯
米粉をつけてカラリと揚げた白海老と実山椒のご飯。揚げることで白海老の薄い殻から香ばしさが最大限に引き出され、口の中で威力を発揮。ご飯を進めてしまう旨味の濃さ、そしてそれを引き締める実山椒も良い。


●デザート

さらにディナーでは、食後にお茶室に移動して店主のお点前でお茶を頂くことができます。

和蝋燭がゆらゆらと灯る中でのお茶席の趣。唯一無二の演出です。

2020年3月18日 ホタルイカ、滑川ズワイガニしゃぶしゃぶ

今回は3月1日に解禁になったホタルイカづくしで、いろんな食べさせ方をしてくれて堪能できました。昨シーズンは不漁でしたが、今シーズンはこれまでにない豊漁なのだとか。
そして、萩原さんは滑川の魚屋ご出身で、毎日弟さんが珠玉の魚を選んでいるので、鮮魚のレベルが高い。
一献は梅酒。

●先付
葉山葵おひたし、村雨たまご、ウド甘海老きゅうり串、ナマコ酢、ヨモギ麩田楽
桜の花を添えて。

●ます寿司 スペシャリテ
これが出てきたらやっぱり嬉しい。スペシャリテたる完成された美味しさに心踊る。

●お吸い物 桜鯛と桜の葛どうふ

●ボタンエビ、のど黒
ボタンエビと軽く昆布締めにしたのど黒。お醤油か滑川の深層水塩ポン酢で。のど黒はいい脂の乗りで、昆布締めもちょうど良く美味。

●ホタルイカ造り、竜宮そうめん
ホタルイカは活で準備してくれました。あらかじめ目と口をピンセットで一つ一つ取ります。

ホタルイカの胴体部分は丁寧に内臓を出してお造りとして。テッサみたいに何枚かまとめて食べたい衝動に駆られます。ホタルイカの脚の刺身は富山で“竜宮そうめん”と言われます。極細の麺のようにさわさわと口の中で踊る。内臓は加熱調理し別添えで。なんて贅沢なお造りだこと。


●カラスミ餅
箸休めとして出してくれたのは、カラスミ入りお餅の炭火焼を海苔でクルッと巻いたもの。まずは海苔の香ばしいパリッ。カラスミの旨味とあるまるい塩味がお餅にぴったり。

●滑川ズワイガニしゃぶしゃぶ
名残のズワイガニ、食べ納めです。コース冒頭に活ズワイガニを目の前で手際よく捌いてくれました。


足の部分はしゃぶしゃぶとして、しかも食べ比べです。手前から奥に向かうに連れてしっかりと火入れをしてあります。サッと軽く湯通ししたものが一番鮮明に甘さが際立っていました。加熱するごとに繊維の輪郭が出て、ぷっくりちゅるんと舌触りが良くなります。ほんの少しの火入れ度合いでガラッと味を変えるカニの面白さ。

●カニ出汁スープ
カニのエキスが凝縮したスープ。カニ身も入っていますが、これはスープが主役。さらにカニのエッセンスに葱油の香味が上手く調和しており、甲殻類の美味しさを昇華させてあります。

●ホタルイカ炭火焼
香ばしく焼いたホタルイカ、中からピュッと飛び出す肝が濃厚なソースの役割を果たします。

●カワハギ豆乳鍋
カワハギ、八尾の野芹、魚津の新若芽を卓上で豆乳鍋として。この豆乳スープは出汁のほうが多い出汁割りで、とても美味しく余さず飲み干しました。野芹の鮮烈な野趣がアクセント。若芽はとろんとやわらかく美味しいこと。



●ホタルイカご飯
クライマックスに再び心が弾む。土鍋の蓋を外すとぷっくり膨らんだホタルイカの花が咲く。ああ、もう立ち上る香りでおいしい。刺身とも炭火焼ともまた違う、ふっくらしたホタルイカがご飯に馴染みます。


●デザート
器とシルバーのスプーンフォークは釈永岳さんの妹である釈永維さん製で、これははぎ原さんオリジナルで作ってもらったものなのだとか。とにかく器へのこだわりがすごい。

最後はお薄を頂き終演。

2019年9月2日 のど黒カツ、池多牛と松茸のすき焼き


一献は青森の銘酒田酒にて。

お酒は勝駒を。
酒器は、能作さんの錫のお猪口、富山ガラス美術館、越中瀬戸焼の多種類から選べます。

能作さん製の立山を象ったお猪口を選びました。
とっくりは富山で唯一の切子職人、富山切子の塩原清夏さん。

●先付八寸
濃萌黄が映える虫籠盛りで。

岩もずく、万願寺唐辛子ジャコ、蒸し鮑たたきオクラ、“富山ブラック”という名前の黒大豆枝豆、鱧の子レモン流し、金時、時雨煮
籠を外して料理を目で追ううちに「アッ」となったのが、スズムシやコオロギを思わせる葉で作った触角の長い昆虫。小さい秋を見つけて嬉しくなった。

●ます寿司 スペシャリテ



●お吸い物 白えび月とうふ
塗り物のお椀は魚津漆器で、立山連峰が幾何学模様で沈金にて描かれている。見返しには「山」、見込(底)部分には「富」の文字が描いてあるが、月とうふで隠れており、食べ終えたら現れるという素敵な遊び心。



●お造り
器は越中瀬戸焼釈永由紀夫さんで、立山の標高2405mに位置する“ミクリガ池”を象ったもの。自然の荒々しさと神秘的な美しさが、陶器とガラスで見事に表現されている。
ボタン海老、クルマダイ、越中バイ、アカイカ、げんげんぼう。滑川の深層水の塩ポン酢とお醤油で。

●のど黒カツ
フライが出て来たと思ったら、なんとのど黒!衣サクッと中からおいしいのど黒の脂がたゆたう。器にはふっくら厚みと、濡羽色と玄色が織りなす味わいが感じられるが、こちらも越中瀬戸焼釈永由紀夫さんで、また違う面持ち。


●魚津産 毛蟹
立派な毛蟹を茹でて身出しして、濾したトマトの透明エキスをかけて。風流な演出で食べる前から心踊る。立派な毛蟹なので足も太い。トマトエキスが相性抜群。蓮の葉から連想する涼やかな味わいで、蟹トマト両者の旨味が調和する。


●池多牛
この流れで牛は嬉しい。しかも牛肉は、通称“池多牛”と呼ばれている富山の池多ファームさんの牛。飼料は自家製産にこだわり、県産のコシヒカリの稲わらや遺伝子組み換えなしの配合飼料などを与える。その池多牛に秋の味覚松茸を添えてすき焼き風の味付けで。のせてあるのは卵黄の天ぷらで、箸を入れると卵黄がとろとろ流れ出る。削った栗をパラリ。これは説明不要のうまさだ。ああうまい。

●鱧の豆乳しゃぶしゃぶ
卓上コンロで鱧をしゃぶしゃぶ。出汁は豆乳でミルキーだがあっさりうまい。

鱧のお次は、砺波の大門地区発祥の丸まげ乾麺のおそうめん“大門素麺”をつけて。

●うなぎご飯
お食事はうなぎご飯で、炒り胡麻、山椒の薬味が効いている。最初はそのまま頂いて、出汁がけ、とろろがけで3段階で楽しむ。ご飯茶碗は越中瀬戸焼釈永由紀夫さんだ(この後の抹茶椀も)。




●デザート
マンゴーアイス、呉羽梨、シャインマスカット、ルビーロマン、無花果ケーキ、ピーナッツ寒