「杜庵(とうあん)」農口尚彦研究所のテイスティングルームがとにかくすごい!スーパー解説と飲み比べで知る農口杜氏の酒

料理: 8.0 その他: 8.0 ポイントについて
農口尚彦研究所 (のぐちなおひこけんきゅうじょ)
TEL
営業時間 14:15〜15:45のみ(約90分のプログラム)
定休日
価格帯 5000円(税別)※農口尚彦研究所公式HPより会員になってから予約可
訪問回数 3回

“酒造りの神様”と呼ばれる農口尚彦さんが現在杜氏を務めるのが、その名も「農口尚彦研究所」である。場所は小松市の山手で、小松空港からも小松駅からもまだかなりの距離があるのでアクセスは困難だが、酒好きにはぜひ訪れてほしい場所だ。ここにはテイスティングルームがありこの酒蔵で作られた酒の飲み比べが、おつまみとのペアリングでできるのだ(有料。予約はネットで会員になってから)。場所や予約方法などいろいろ難易度が高いが、ここまで足を運ぶ価値がある。


まずは蔵にたどり着くまでの景色に驚くだろう。山々に囲まれた場所にあるのだが、この辺りの山は雰囲気が違う。石切場(採石場)になっているところが点在するので、高層ビルのように山肌が規則正しく切り取られてる。これはなかなか迫力あり目に新しい。ちょうど酒蔵の目の前にも石切場がある。

(最終訪問 2020年1月24日)

農口尚彦研究所の酒蔵見学

まずは蔵見学から。見学と言っても蔵に入るわけではなく、もろみが仕込まれるタンクがずらりと並ぶ部屋があり、ガラス張りになっていて一望できる。デザインもかっこ良くて胸が高鳴る。

壁には酒と農口氏の歴史が書かれており、奥に行くにつれ歴史が追えるようになって勉強になります。
農口杜氏が酒造りの時に使われているメモ

親子三代杜氏の家系

農口さんは親子三代で当時の家系だ。(農口研究所「親子三代 能登杜氏の系譜」より引用)
農口家の歴史をここにまとめておきます。

能登杜氏集団が登場したのは江戸時代のこと。能登では農業や漁業ができない冬の農閑期に、出稼ぎに行くことが根付いたが、中でも酒造りのために出稼ぎに行った人々は「能登衆(のとしゅう)」と呼ばれた。
明治期、農口尚彦氏の祖父である農口勇松氏は、三重県で酒造りに従事されたそうだ。まだ醸造技術が確立されておらず、腐造(酒を腐らせる)も多かった時代に腕利きの杜氏として活躍。毎年秋に20数名の若者をつれて7日かけて奥能登から三重県に徒歩で向かったそうだ。

それを聞くとさすが農口家の血筋はすごいのだなあと思う。

明治末期には、尚彦氏の父である農口由太郎氏が三重県松坂にて酒造りに従事。この頃は速醸酛法による醸造が発明され、生酛作りよりはるかに短い期間での酒造りが可能になった頃だ。

そして農口尚彦氏が誕生したのは昭和7年(1932年)12月24日のこと。2歳の頃に祖父勇松氏が亡くなったそうだ。
昭和24年(1949年)農口少年は中学校2年生。父の進めで静岡県富士市にある造り酒屋「山中正吉商店」への就職を決めた。16歳だった。
昭和36年(1961年)菊姫合資会社 杜氏着任
1980年代、農口氏の吟醸酒が美味しいと噂になり吟醸酒ブームの火付け役になる。
平成2年(1990年)「菊姫大吟醸」ファーストクラスに採用
平成9年(1997年)菊姫を定年退職。農口さん65歳。入社当時は700石だった生産高は7000石になっていた。36人の蔵人を率いていた。
平成10年(1998年)鹿野酒造 杜氏着任
着任後すぐに麹の質を上げるために麹室を改善させたそうだ。そしてその翌年から酒質が格段に向上し評判に。さらに特定名称酒のみに絞って酒造りを行う
平成18年(2006年)「現代の名工」認定
平成20年(2008年)黄綬褒章(おうじゅほうしょう)受賞
平成24年(2012年)鹿野酒造合資会社退職
平成25年(2013年)農口酒造の杜氏に
平成29年(2017年)農口尚彦研究所で若手杜氏育成のために杜氏として復活

テイスティングルーム「杜庵」がすごい

同施設内にあるテイスティングルーム「杜庵(とうあん)」では、齋藤憲さんのスーパー解説によって、農口氏の酒の飲み比べが楽しめる。農口ファンや酒好きはもちろん、プロの鋭い質問にも完璧に解説をしてくれる。さすが農口尚彦研究所!ちなみに海外からのゲストは香港台湾などが多く、訪問者数の1割を占めるのだそうだ。本当の食通はどんなに難易度が高い場所でもやってくる。
この杜庵の文字は人間国宝吉田美統(みのり)さんによるもので、ここで提供される酒器も吉田美統さんの作品が登場する。

一歩踏み込むとパッと景色が開けて田園が目に飛び込んでくる。自然光が入り新緑色が眩しく嬉しくなる。まるで巨大なポストカードのように長方形に切り取られた風景。たまに視界にフレームインしてくるトンビ、さわさわと苗が風に揺れてなびくのもまた良い。季節で風景が変わる。冬の雪景色も素晴らしいのだろう。

茶室を元に作られており、カウンターテーブルは茶室のサイズである4畳半だ。壁は珪藻土に籾殻が混ぜ込んであるそうだ。
(左)十一代 大樋長左衛門 氏、(右)齋藤憲さん 器は大樋焼も登場する。(写真は初訪問2019年5月30日のもの)



水は白山連峰に70年前に降り積もった雪が地下を通り湧き出したもので、酒の仕込み水にも使われている。重厚な面持ちの珠洲焼に入れられている。

お酒は3つのコンセプトで提供される。
①本日の蔵酒
②酒器による飲み比べ(この日は3種)
③季節の酒

①まずは純米大吟醸 無濾過生原酒 2017BYから。昨年度の純米大吟醸で、生原酒の瓶内一年熟成酒だ。
酒肴は同蔵の酒粕を使用したイカの粕漬け。辛口タイプにも合う品のある味で、ソフトな食感が心地よい。フグの卵巣糠漬け、鯖のへしこはどっしりとした醇酒系も進んでしまう。

②酒器による飲み比べだが、酒器というか山廃の飲み比べでもあり興味深かった。
3種類の山廃は全て酒米が異なる。
左から、五百万石、美山錦、愛山
ちなみに中央の盃は、九谷毛筆細字 田村星都さんの作品。この小さな文字は、裸眼で手書きする、一子相伝の技です。

個人的に好みだったのは美山錦。他よりもまるい甘さがありキレが良い美酒で、飲み疲れもしにくい。伺ったら女性はこれが好みの人が多いのだとか。

③季節の酒はお菓子と共に。
最後は玉手箱が登場。中にはお菓子が入っている。お酒をディップして味わうのだが、このために開発されたお菓子だそうだ。ひとつは寒天菓子で、これは石切場で採掘される「日華石(にっかせき)」をイメージしいるそうだ。他干菓子2種類。お酒の後なので甘いのが欲しくなっているタイミングでもある。


まず最初にそのまま食べて違いを確かめてから、お酒に浸して食べる。これらを本醸造の無濾過生原酒に浸して味わう。
この酒は定番の酒で価格的にも買いやすいが、こういう酒も格別うまいところが農口氏の酒が賞賛される理由の一つでもある。酒通が驚くポイントでもある。まずはスーッと入って来て輪郭が見える。梨のようなフレーバーが広がり消えていくが、軽くてスイスイ飲めるだけではなく、おすしをつまみたくなるような気持ちになってくる。要は食中酒にぴったりなのだ。

齋藤さんの解説でより味わいに深みが増した。充実感で胸がいっぱいであるのと同時に、もっと知りたいという気持ちが膨らんだ。次はあの人を誘って再訪したいなと何人かトップシェフの顔が頭に浮かんだ。

杜氏 農口尚彦さん
とても柔らかい雰囲気で、パッと笑顔で接してくださって、お人柄あたたかく優しい方です。

限定のLIMITED EDITIONとは

ヴィンテージ限定シリーズのご紹介です。
●LIMITED EDITION
NOGUCHI NAOHIKO 01 vintage 2017
発売開始 2018年12月25日(販売価格:税別35,000円 ※化粧箱入)

「酒造りの神様」農口尚彦氏が復活した初年度2017年に醸したヴィンテージです。
齋藤憲さんの「最高の状態に仕上がっています」の“仕上がってます”という言葉がど真ん中で、本当に仕上がっていました。香りも味わいも果実を絞ったようにフルーティー。ピーチやマンゴー、マッションフルーツ、メロンなどが発見できて、バランスも良くうっとりする美味しさです。フルーツを食べたときの口の潤いに似たジューシー感です。この一杯でいい夢が見られます。
重厚感のあるシックなボトルは大樋長左衛門氏のデザイン。よく見て頂けると分かりますが、アシンメトリーで左右非対称なんです。センスが光りますね。このボトルは大事に取っておきたい。