「杜庵(とうあん)」農口尚彦研究所のテイスティングルームがとにかくすごい!スーパー解説と飲み比べで知る農口杜氏の酒

料理: 7.7 その他: 7.3 ポイントについて
農口尚彦研究所 (のぐちなおひこけんきゅうじょ)
TEL
営業時間 【午前の部】10:30〜12:00、【午後の部】14:15〜15:45(約90分のプログラム)
定休日
価格帯 テイスティングコース(税込5,500円)、ノンアルコース(税込3,300円)※農口尚彦研究所公式HPより会員になってから予約可
訪問回数 3回

“酒造りの神様”と呼ばれる農口尚彦さんが現在杜氏を務める、その名も「農口尚彦研究所」。場所は小松市の山手で、小松空港からも小松駅からもまだかなりの距離があるのでアクセスは困難ですが、日本酒ファンにはぜひ訪れてほしい場所。(ちなみにご本人は神様と呼ばれるのは好きじゃないそうです。)
敷地内にはテイスティングルームが設けられており、日本酒の飲み比べがおつまみとのペアリングでできます(有料。予約はネットで会員になってから)。場所や予約方法などいろいろ難易度が高いですが、ここまで足を運ぶ価値がある濃い内容でした。


まずは蔵にたどり着くまでの景色に驚きます。山々に囲まれた場所で、石切場(採石場)が点在するので、高層ビルのように山肌が規則正しく切り取られています。これはなかなか迫力あります。ちょうど酒蔵の目の前にも石切場があります。

農口尚彦研究所の酒蔵見学

まずは蔵見学から。見学と言っても蔵に入るわけではなく、もろみが仕込まれるタンクがガラス張ごしですが一望できます。デザインもかっこ良くてドキドキする。

壁には酒と農口氏の歴史が書かれており、奥に行くにつれ歴史が追えるようになっていて勉強になります。
農口杜氏が酒造りの時に使われているメモ

親子三代杜氏の家系

農口さんは親子三代で杜氏の家系です。(農口研究所「親子三代 能登杜氏の系譜」より引用)
農口家の歴史をここにまとめておきます。

能登杜氏集団が登場したのは江戸時代のこと。能登では農業や漁業ができない冬の農閑期に、出稼ぎに行くことが根付いたが、中でも酒造りのために出稼ぎに行った人々は「能登衆(のとしゅう)」と呼ばれた。
明治期、農口尚彦氏の祖父である農口勇松氏は、三重県で酒造りに従事されたそうだ。まだ醸造技術が確立されておらず、腐造(酒を腐らせる)も多かった時代に腕利きの杜氏として活躍。毎年秋に20数名の若者をつれて7日かけて奥能登から三重県に徒歩で向かったそうだ。

それを聞くとさすが農口家の血筋はすごいのだなあと思いますね。

明治末期には、尚彦氏の父である農口由太郎氏が三重県松坂にて酒造りに従事。この頃は速醸酛法による醸造が発明され、生酛作りよりはるかに短い期間での酒造りが可能になった頃だ。

そして農口尚彦氏が誕生したのは昭和7年(1932年)12月24日のこと。2歳の頃に祖父勇松氏が亡くなったそうだ。
昭和24年(1949年)農口少年は中学校2年生。父の進めで静岡県富士市にある造り酒屋「山中正吉商店」への就職を決めた。16歳だった。
昭和36年(1961年)菊姫合資会社 杜氏着任
1980年代、農口氏の吟醸酒が美味しいと噂になり吟醸酒ブームの火付け役になる。
平成2年(1990年)「菊姫大吟醸」ファーストクラスに採用
平成9年(1997年)菊姫を定年退職。農口さん65歳。入社当時は700石だった生産高は7000石になっていた。36人の蔵人を率いていた。
平成10年(1998年)鹿野酒造 杜氏着任
着任後すぐに麹の質を上げるために麹室を改善させたそうだ。そしてその翌年から酒質が格段に向上し評判に。さらに特定名称酒のみに絞って酒造りを行う
平成18年(2006年)「現代の名工」認定
平成20年(2008年)黄綬褒章(おうじゅほうしょう)受賞
平成24年(2012年)鹿野酒造合資会社退職
平成25年(2013年)農口酒造の杜氏に
平成29年(2017年)農口尚彦研究所で若手杜氏育成のために杜氏として復活

テイスティングルーム「杜庵」がすごい

同施設内にあるテイスティングルーム「杜庵(とうあん)」では、農口氏の酒の飲み比べが楽しめます。農口ファンや日本酒好きはぜひ体験してほしい。海外からのゲストも多く(コロナ禍前)、訪問者数の1割を占めたのだそう。

この杜庵の文字は人間国宝 吉田美統(みのり)さんによるもので、ここで提供される酒器も吉田美統さんの作品が登場しますよ。

一歩踏み込むとパッと景色が開けて田園が目に飛び込んできます。自然光が入って新緑色が眩しい。まるで巨大なポストカードのように長方形に切り取られた風景。たまに視界にフレームインしてくるトンビ、さわさわと苗が風に揺れてなびくのも良いものです。冬の雪景色も素晴らしいはず。

茶室を元に作られており、カウンターテーブルは茶室のサイズである4畳半。壁は珪藻土に籾殻が混ぜ込んであるそうです。

(左)十一代 大樋長左衛門 氏 器は大樋焼も登場します。(写真は初訪問の2019年5月30日のもの)



水は白山連峰に70年前に降り積もった雪が地下を通り湧き出したもので、酒の仕込み水にも使われています。重厚な面持ちの珠洲焼に入れられていました。

お酒は3つのコンセプトで提供されます。
①本日の蔵酒
②酒器による飲み比べ(この日は3種)
③季節の酒

(2020年1月24日訪問でのコース)

①まずは純米大吟醸 無濾過生原酒 2017BYから。昨年度の純米大吟醸で、生原酒の瓶内一年熟成酒。
酒肴は同蔵の酒粕を使用したイカの粕漬け。辛口タイプにも合う品のある味で、ソフトな食感が心地良い。フグの卵巣糠漬け、鯖のへしこはどっしりとした醇酒系も進んでしまいました。

②酒器による飲み比べですが、山廃の飲み比べでもあり興味深かったです。
3種類の山廃は全て酒米が異なります。
左から、五百万石、美山錦、愛山
ちなみに中央の盃は、九谷毛筆細字 田村星都さんの作品。この小さな文字は、裸眼で手書きをする一子相伝の技です。

個人的に好みだったのは美山錦。他よりもまるい甘さがありキレが良い美酒で、飲み疲れもしにくい。伺ったら女性はこれが好みの人が多いのだとか。

③季節の酒はお菓子と共に。
最後は玉手箱が登場。このコースのために開発されたお菓子が入っています。
ひとつは寒天菓子で、石切場で採掘される「日華石(にっかせき)」をイメージ。他干菓子2種類。


まず最初にそのまま食べて違いを確かめてから、本醸造の無濾過生原酒に浸して味わいます。
この酒は定番の酒で価格的にも買いやすいのですが、こういう酒も格別うまいところが農口氏の酒が賞賛される理由の一つでもありますね。
まずはスーッと入って来て輪郭を感じさせ、梨のようなフレーバーが広がり消えていきます。スイスイ飲めるというだけではなく、何だかおすしをつまみたくなる、要は食中酒にぴったりのお酒。

杜氏 農口尚彦さん
とても柔らかい雰囲気で、パッと笑顔で接してくださって、お人柄あたたかく優しい方です。

限定のLIMITED EDITIONとは

ヴィンテージ限定シリーズのご紹介です。
●LIMITED EDITION
NOGUCHI NAOHIKO 01 vintage 2017
発売開始 2018年12月25日(販売価格:税別35,000円 ※化粧箱入)

「酒造りの神様」農口尚彦氏が復活した初年度2017年に醸したヴィンテージです。
齋藤憲さんの「最高の状態に仕上がっています」の“仕上がってます”という言葉がど真ん中で、本当に仕上がっていました。香りも味わいも果実を絞ったようにフルーティー。ピーチやマンゴー、マッションフルーツ、メロンなどが発見できて、バランスも良くうっとりする美味しさです。フルーツを食べたときの口の潤いに似たジューシー感です。この一杯でいい夢が見られます。
重厚感のあるシックなボトルは大樋長左衛門氏のデザイン。よく見て頂けると分かりますが、アシンメトリーで左右非対称なんです。センスが光りますね。このボトルは大事に取っておきたい。