金沢市中心部からは車で20~25分、野々市市の住宅地の一角にある名店。野々市市の名店と言えば「すし処めくみ」さんも有名ですね。「太平寿し」も「すし処めくみ」どちらとも強くオススメできるすし店ですが、タイプは大きく異なり、それぞれに飛び抜けた良さがあります。
太平寿しの創業は1972年。大将の高谷進二郎さんのすしは独創的で革新的。そして大将は石川県のすしを牽引されてこられた偉大な方でした。一流のすし屋の暖簾をくぐるのは、やはり背筋が伸びる緊張感があるものですが、大将のユーモア溢れるお人柄が、張り詰めた緊張感を解きほぐしてくれました。2018年春に旅立たれ、悲しみに包まれた金沢でしたが、高谷大将のDNAをしっかりお弟子さんが受け継いでいらっしゃって素晴らしいと思いました。太平さん独特のあたたかな空気はそのまま。大将をリスペクトされていることが雰囲気からもすしからも伝わります。現在は向野公士(むこのこうじ)さんがつけ場に立ちます。太平のすしのレベルを高いまま保とうとする姿勢、“チーム太平寿し”の結束力が感じられ、なんだか泣けてきます。すしのレベルも高く、オススメしたい。
いいお店です。
すしは流れからして独特。最初に小鉢がお通しのようなかたちで出ますが、基本的にその後は握りとなります。ただし握りだけがひたすらというわけではなくて、基本的に同じ魚で握りと刺身を毎度出してくれます。魚としてのおいしい食べさせ方と、握りになってこそ昇華されるおいしさの2通りが、1つの魚で味わえるというわけです。
独創性を感じるすしがたびたびありますが、例えば甘海老。シャリに子を混ぜ込んであって鮮明なマリンブルーをしています。見た目にインパクトありますが、これが珠玉の一貫。米粒と卵の粒々がさわさわとほぐれ、身の甘さと味噌のコクと一体になり、最後にはかすかな海の香が余韻します。
スペシャリテは「のど黒の蒸し寿司」。高谷大将が考案した温かいおすしです。
コースは価格別に3段階。1万円、1万2000円、1万5000円があります。
(最終訪問 2020年3月2日)
太平寿し 2020年3月2日 1万2000円コース
つけ場に立つ向野公士(むこのこうじ)さん。高谷大将と同じくやわらかい笑顔で迎えてくれて嬉しくなります。
(写真は一部)
●バイ貝肝、黒もずく
●ヒラメ、なめら握り、七尾の赤西貝
むちむちとしたなめら握りは木の芽を閉じ込めて。
●鯖の棒ずし
●菜の花昆布締め
●甘海老
甘海老の身の上にのっている紫蘇のようなのは炒った甘海老の卵、そして海老味噌。子を持っていない時期にこうやって旨味を添えるのかとなるほど。身がねっとりとろけて甘さが広がってからのエビ味噌と卵の二重の旨味の余韻。
●鰤
1つは握りでシャリ入りで脂がシャリに溶け合う。もう1つは大根おろし入りなのでスッと脂を切ってくれるという、2つの楽しみ方。
●白子柚子シャリのせ
●アカイカ 白波のような美しさと、口に入れた時にふわっと立ち昇る香ばしさ。
●ホタルイカ
●メジマグロ 藁の風味付け
●マグロ漬け
●あん肝
●ボタンエビ
●サヨリ
●加能ガニ
●のど黒蒸し寿し
高谷大将が考案した太平寿しのスペシャリテ。湯気にのって優しい酸味が鼻腔をくすぐります。蒸してふわっとなったのど黒の身。シャリの下には昆布が敷いてあるため、旨味がシャリに移っており味わいをまとめます。
●穴子
太平寿し 大将高谷進二郎のすし
最後に大将の握ってくれたすし、ここに残しておきたいと思います。(2016年9月8日)
あれは菊酒の時期でした。
●甘海老
●鯖の棒ずし
●鱧、赤西貝、蒸し雲丹なめら
●カツオ
●万寿貝
●大間マグロ 握りと芽ネギ巻きで
●アカイカ(塩、このわたがけ)
太平寿しの塩は「マルドンの塩」なんです。能登の揚げ浜塩よりもまるみのある塩で角のない味に。
●鮑
●のど黒の蒸しずし
●雲丹
●穴子
青柚子を振った穴子は風味に乗って美味しさが昇華。ツメを塗ったものは穴子のとろけるやわらかさと良さと共に甘さが広がります。
そうそう、思い出しました。交通費をケチって食費に投資している私は、太平寿しからのタクシー代がもったいなくって、この日、1時間43分かかって歩いて帰ったっけ(笑)。雨降ってたのに着物だったんですよね。大変でした。でも懐かしく良い思い出です。