※同店は2022年11月29日(火)をもって閉店します。
太平寿しの創業は1972年。今年2022年でちょうど50年の節目でもありました。
大将の高谷進二郎さんは、石川県のすしを牽引されてこられた偉大な方です。旅立たれたのは2018年春。悲しみに包まれた金沢でしたが、高谷大将のDNAをしっかりお弟子さんが受け継いでいらっしゃって素晴らしいと思いました。太平出身のお弟子さんのお店も人気店ばかりです。
高谷大将のすしは独創的で革新的。基本的に1つの魚で握りと刺身を同時に出してくれます。魚としてのおいしい食べさせ方と、握りになってこそ昇華されるおいしさの2通りが、1つの魚で味わえるというわけです。
スペシャリテは、高谷大将が考案した「のど黒の蒸し寿司」。
その名の通り蒸し上げたお寿司で、ほこほこと温かいのです。まずは湯気にのって優しい酸味に鼻腔をくすぐられる。
蒸してとろんとなったのど黒の身がシャリに溶け合います。蒸すことで角が取れた酢の優しい酸味と、甘みを増したご飯、滲み出したのど黒の美味しい脂、それぞれのパーツの特性が火入れすることで変化して新しい味になった革命的なお寿司なのです。
11月29日までの営業期間はもう予約でいっぱいということで、これがここで食べる最後だと思い、高谷大将を思い出しながら食べました。
“名曲は永遠”と言いますが、このスペシャリテも同じく、高谷大将が生みの親としてお弟子さんによって受け継がれ広がり、永遠に残るでしょう。
甘海老の握りは、子をシャリに混ぜ、甘海老の身の上には海老味噌を乗せるのが太平スタイル。“甘海老の再構築”と言えます。
ワサワサとシャリが解れるのと一緒に子の粒も口に広がり、甘海老の身のねっとりした甘さに、海老味噌の濃厚な旨味が重なってグラデーションを描きます。
食べていると色々思い出して、うるうると来ました。
まだまだ駆け出しのあの頃。一流のすし屋の暖簾をくぐるのは、背筋が伸びる緊張感があったのですが、大将のユーモア溢れるお人柄が、張り詰めた緊張感を解きほぐしてくれました。
太平寿し独特のあたたかな空気はそのままで、大将をリスペクトされていることが雰囲気からもすしからも伝わりました。太平のレベルを高いまま保とうとする姿勢、“チーム太平寿し”の結束力が感じられました。
(2022/10/30 写真はコースの一部)
後記にもありますが、大将がいらっしゃる頃、私は交通費をケチって食費に投資しているので、太平寿しからの帰りのタクシー代がもったいなくて、1時間43分かけて歩いて帰ったことがありました。雨降ってたのに着物だったんですよね。大変でしたが、懐かしくてとても良い思い出です。
太平寿しは閉店となりますが、これからのお弟子さんたちの新しい挑戦も応援したい。
たくさんの美味しい思い出をありがとうございました。
(以下、過去訪問の写真ギャラリーです。)
2020年3月2日
つけ場に立つ向野公士(むこのこうじ)さん。高谷大将と同じくやわらかい笑顔で迎えてくれて嬉しくなりました。
(写真は一部)
●バイ貝肝、黒もずく
●ヒラメ、なめら握り、七尾の赤西貝
むちむちとしたなめら握りは木の芽を閉じ込めて。
●鯖の棒ずし
●菜の花昆布締め
●甘海老
●鰤
1つは握りでシャリ入りで脂がシャリに溶け合う。もう1つは大根おろし入りなのでスッと脂を切ってくれるという、2つの楽しみ方。
●白子柚子シャリのせ
●アカイカ 白波のような美しさと、口に入れた時にふわっと立ち昇る香ばしさ。
●ホタルイカ
●メジマグロ 藁の風味付け
●マグロ漬け
●あん肝
●ボタンエビ
●サヨリ
●加能ガニ
●のど黒蒸し寿し
●穴子
大将 高谷進二郎氏のすし
最後に大将の握ってくれたすし、ここに残しておきたいと思います。(2016年9月8日)
菊酒の時期でした。
●甘海老
●鯖の棒ずし
●鱧、赤西貝、蒸し雲丹なめら
●カツオ
●万寿貝
●大間マグロ 握りと芽ネギ巻きで
●アカイカ(塩、このわたがけ)
太平寿しの塩は「マルドンの塩」なんです。能登の揚げ浜塩よりもまるみのある塩で角のない味に。
●鮑
●のど黒の蒸しずし
●雲丹
●穴子
青柚子を振った穴子は風味に乗って美味しさが昇華。ツメを塗ったものは穴子のとろけるやわらかさと良さと共に甘さが広がります。
そうそう、思い出しました。交通費をケチって食費に投資している私は、太平寿しからのタクシー代がもったいなくって、この日、1時間43分かかって歩いて帰ったっけ(笑)。雨降ってたのに着物だったんですよね。大変でした。でも懐かしく良い思い出です。