北陸・富山が世界に誇る日本料理店。心からオススメです。
海老亭は、村健太郎さんで四代目となる由緒ある大料亭でしたが、2016年5月に発刊されたミシュランガイドで2ツ星を獲得しながらも、「星に恥じない腕を身につけたい」と、2018年4月に店を閉め、再び修行に出られたあの伝説的な決断は、今も語り草です。東京の名店「松川」さんでの修行を途中で切り上げて富山へ戻ったという心残り。その“未完の自分”をもう一度磨くために、再び松川さんの門を叩いたストイックさ。愚直なまでに料理に向き合う姿勢と、村さんらしい柔らかいおもてなし。その両方が、魅力的な一店です。
海老亭別館が店舗を新築しての移転再オープンを果たしたのが、2022年10月5日のこと。

場所は富山駅からタクシーで10分ほどで、安野屋金刀比羅神社さんの近隣です。川に面しており、春には桜並木の桜が見えます。
建物は一見日本料理店というよりもイノベーティブレストランのような印象で、2階建てで独特なフォルム。とても余裕のある造りで1階は待合のみで、なんとダイニングは2階にあります。斬新!


店内は黒と白を基調にしたシックさに、和を調和させて高雅な雰囲気を漂わせます。
カウンターは6席あり、目の前で村大将が腕を振います。さらに、個室も2つあります。

カニコース(2025年11月28日訪問)
今回は、カニコースをいただきましたが素晴らし過ぎました。食通のみなさま、ぜひ行ってください。
村さんの実力に関しては、もう語るまでもありませんが、今回のコースは、その“当たり前の凄さ”を再度思い知らされました。しかも一皿一皿のクオリティーの高さに加え、ハッと喜ばせる仕掛けも考え抜かれている。さすがです。
本ズワイは、この日新湊漁港で上がった1.2kgアップを入荷してくれました。
まず、鮮度を損なわぬように、神経〆のように心臓に刺して”活け〆”を施します。

・富山釣り甘鯛昆布締め、白海老
紅葉狩りを思わせる葉のプレゼンテーションにて、甘鯛昆布締め、白海老、水菜、もって菊、すだち出汁。
一皿目から美意識の高さが際立ちます。


・ズワイガニ飯蒸し
餅米に、ズワイのしゃぶしゃぶを重ねて、カニ味噌をとろり。

・香箱蟹、本ズワイガニ 焼き
香箱蟹はまずはカニ面盛りで。松葉を敷いたしつらえも趣があります。
同時に炭火焼きにてほんのり煽った本ズワイを。

・朝獲れ鰤
脂が乗っているので薄めに引いて、その美しい脂を切ってくれる赤玉ねぎと共に。

・本ズワイしんじょ椀
吸地が計算されていて感動がありました。最初は控えめに感じるものの、しんじょの中にカニ味噌が射込んであり、コクがグラデーションを描きます。
料理前後のバランスという点からもなるほど、という吸地。

・活富山海老(オプション)
飛び跳ねるほど元気な活富山海老があるとのことで、お刺身でいただくことにしました。
水そのものと言える輝く透明感と、歯に感じる筋肉の弾力と綺麗な旨み。
頭は焼いて出してくれて、香ばしさと共に海老味噌を堪能。



・カニ刺
軽い昆布締めで水分を整え、旨みを乗せたカニ刺し。甘みと透明感とほんのり旨みが広がる。
添えられる蟹味噌醤油も素晴らしい。

・香箱蟹沖漬け
香箱蟹はカニ面盛りでも出て来たのに、さらに沖漬けまで。内子の旨みに調和して、ご飯泥棒・酒泥棒な一品。絶品。

・白和え あんぽ柿、五箇山豆腐
日本海のポテンシャルを味わう流れに、ふっと箸休め的な一品。富山の田園風景が脳裏に広がる。コースの組み立ても素晴らしい。

・本ズワイしゃぶしゃぶ
本ズワイお次はしゃぶしゃぶにて。
出汁にくぐらせ、タイミングを見極めて引き上げることで、身の繊維が最も美しくほどけ、甘みがピークに立ち上がる。


・蕪
素朴な一品が、無言で教えてくれる世界観と美学。スッと染み入るおいしさ。

・自家製そば なめこおろし
自家製そばの喉ごしの良さ、なめこの瑞々しさと大根おろしの清涼感。コースの流れを美しく整え、終盤を品よく引き締めてくれる一品でした。

・お食事
ジャコ山椒、蕪の葉炒め、鰤ゆず味噌和え、鰹漬け、長芋大根、カニの卵とじ
修行先だった「松川」さんスタイルのお食事も、海老亭別館での終盤の楽しみ。ご飯のお供が素晴らしい、何よりご飯自体が別格の美味しさ。

・ゼリー

・あんみつ
珠洲 能登小豆、魚津ラフランス、寒天、和紅茶シロップ

おまかせコース
今回は初訪問(2022年12月)だったので、カニの時期ではありましたが、カニづくしコースではなく通常コースを選びました(しかしながらカニのお料理もいくつかありました)。
食材で印象的だったのは、富山の本カワハギ。
大将も東京から戻られて地物の良さを実感されているようですが、東京と勝手が違うところは、東京だと市場から食材が入ってくるため入荷の心配があまりないのですが、富山は新鮮な珠玉食材が手に入りますが毎日変化があるので、読み解きながら料理をする難しさと楽しさがあるそう。抜群の食材が揃う日もあれば、シケの日もあるため、日々最善で提供できるように試行錯誤されているそうです。
さらに特筆したいのは、松川さんの流れを汲む料理です。お食事やデザートはそのものでした。
●鱈の白子 柚子釜
冬の訪れを感じさせる最初の一品。ほこほこと温かい柚子釜に、白子には焼き目を付けて香ばしさを添えて。

●香箱ガニ 飯蒸し

●本カワハギ 富山
これは絶品。ハリのある身質とクリアな味わいで、咀嚼するごとに甘さが広がる。新鮮だからこそできる、肝醤油のミルキーなコクを添えて。

●お吸い物 ズワイガニとクチコ
まずは完璧な吸地に顔がほころぶ。クチコは生だからこそのぷっくりした繊維感が舌に感じられ、絶妙な塩気も重なり美味。

●寒鰤 氷見、アオリイカ 新湊
格別な美味しさの氷見の寒鰤。そしてアオリイカの包丁の美しさに、大将の実力の高さと貫禄を感じました。


●香箱ガニ 沖漬け
今の季節だからこその珍味。一口食べたらお酒がスイスイと進み、もう一口カニを導きたくなる繰り返しの罪な一品。白いご飯に乗っけて食べたいやつでもあります。

●鰤カマ 炭火焼き
表面は美しい狐色に焼き上げてサクサクと香ばしく、中はふんわりホコホコとして熱々の温度と共に上質な脂が口の中にたゆたう。

●鴨
揚ネギを添えた松川スタイル。

●甘鯛蕪蒸し

●大長谷のなめこ そば
大将が手打ちをしたおそばです。キリッとしてシコシコした食感。爽快感が喉から胃袋までリレーをして美味。コースのアクセントにもなってとても良いと思いました。

●お食事
醤油漬け生イクラ、生カラスミ、海苔、山椒ジャコ、カニ
松川さんに行ったことがある人はお馴染みのセットで、そこにカニがプラスされています。後半戦で一気にテンションが上がっちゃいました。


どの組み合わせにしようかと楽しみながら味わえるのも良いですね。お好きなようにご飯に乗っけて。

●水菓子(オーロラ、ゆめのか)

●水羊羹
こちらも松川さんでお馴染みの水羊羹。最後にこれは嬉しい。
松川さんのそのものと言える、スッと入ってきて幻のように消える口溶けで、最後はもう夢心地でした。


