2025年9月12日(金)と13日(土)、金沢のモダンスパニッシュ「respiración(レスピラシオン)」にて、中国・北京のベジタリアン料理「LAMDRE(兰斋、ランドレ)」との特別なコラボレーションディナーが開催されました。テーマは、大地の脈と呼吸を表す「地脉呼吸(ちみゃくこきゅう)」。通常はベジタリアン料理を提供していない「respiración」が、その領域にチャレンジするという、非常に挑戦的かつ意義深い試みでもありました。そのイベントレポートです。


■「LAMDRE」──植物を新たな表現で昇華させる革新者
「LAMDRE」は、“現代植物料理”を掲げるベジタリアン料理レストランで、2025年の『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』に新規ランクインした、現在最も注目を集める革新的な一店です。シェフのダイ(戴军)氏は、植物由来の食材の多様な可能性を探求しており、ベジタリアン料理の「制限」は「可能性」へと姿を変えます。今回のコースでは、ナッツ類や発酵食品、薬膳的アプローチ、さらには器そのものに至るまで、素材に対する敬意と創造性が凝縮されていました。

■「respiración」──土地と呼吸し、深化するモダンスパニッシュ
ホストを務める「respiración」は、ミシュランガイドで2ツ星を獲得する金沢が世界に誇るモダンスパニッシュ。2025年7月に8周年を迎えました。2023年の大規模改装を経て、厨房機能を強化し、自家製の発酵調味料や発酵食品にも本格的に取り組み、その世界観に厚みが加わっています。
“呼吸”を意味する店名の通り、地元食材と丁寧に向き合いながら、自由な発想で料理を展開。3人のオーナーシェフである梅達郎さん・八木恵介さん・北川悠介さんのチームワークもこのレストランの強みです。
「respiracion(レスピラシオン)」リニューアルオープンして凄みが増している!自家製調味料、自家農園にて野菜栽培も。細部に神が宿る。金沢が世界に誇るモダンスパニッシュ

ベジタリアンコースというと、動物性食材の制限による“物足りなさ”が課題になってきそうですが、例えば、カシューナッツのヴィーガンバターで味わいに厚みを出したり、コースの流れにスパイスを効かせた料理を置いてメリハリを持たせたりと、他所で工夫が光っておりました。また、レイヤーもかなり複雑で、味わいも風味も食感も、細部まで計算されておりました。
またペアリングはノンアルコールとアルコールが選択できましたが、ノンアルコールペアリングは創造的で面白く、アルコールペアリングは魅力的なラインナップで、どちらを選んでも満足度の高い内容でした。


・火焰菜 Beet roots(respiración)
「respiración」の一品目の定番と言えば、スペシャリテとして知られる甘海老の再構築「インパクト甘海老」ですが、今回はベジタリアン料理ということで、何が出てくるのかととても楽しみでした。
色彩も美しいフィンガーフードが登場し、嬉しい驚き。金沢古代米のタルトに、能登島「高農園」のビーツ、発酵プラム、カシューナッツ、パプリカチリソース。妖艶で滋味ある味わいに、カシューナッツのヴィーガンバターでコクを持たせています。添えてあるのは、昨年秋に収穫した実山椒で、噛むタイミングで清涼感がアクセントに。

ノンアルコールでのペアリングは「森」。
森のジン、香母酢、能登杉で構成され、ボタニカルな味わいが料理に調和。プレゼンテーションと世界観に引き込まれます。


・向日葵 Sunflower(LAMDRE)
ひまわりをモチーフにした美しい一皿に目を奪われます。
黒胡麻のタルト、北京の山査子の実、トップにはひまわりの種と紫蘇の実をビネガーで漬け込んだものを乗せてあり、視覚的にも芸術的。中のピュレはカシューナッツとひよこ豆でクリーミー、日本の青りんごの爽やかさで持ち上げる。

・松茸 Matsutake mushrooms(LAMDRE)
不思議な一皿が登場。純白のレースは衣笠茸(キヌガサタケ)で、加賀れんこんとくわいをベールで包み込みます。温かなスープは雲南省の松茸で、湯気に乗って芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。れんこんのシャキシャキとした食感もアクセントに、大地のおいしさが際立つ、余韻まで美味しい一皿でした。

・西葫芦 Zcchini(respiración)
ズッキーニを、まったく異なる角度から2皿構成で表現しており、海と山里のテロワールを感じるものでした。
1品目は冷製で、ズッキーニと蓬のムース。ズッキーニのピクルスに加えて、じゅんさい、能登・宇出津のワカメの出汁をベースに仕立てたコンブチャ(発酵茶)、蓬オイルを重ね、グリーンのニュアンスを幾重にも重ねます。

2品目は温製で、手取川・吉田蔵の酒粕で2日ほどマリネしたズッキーニのロースト。ソースはカリフラワーと酒粕のクリーム状のソース。ズッキーニの青味に対して、カリフラワーの自然の甘さと酒粕のコクがバランス良く調和します。球体の中には、万願寺とうがらしと塩レモン入り。


ノンアルコールでのペアリングは「実」。
万願寺とうがらし、林檎、乳漿(ホエー)、木天蓼(またたび)

・自家製カンパーニュ 15種類の雑穀


・羅漢果 Mank Fruit(LAMDRE)
中国の羅漢果は、天然の甘味料であり、咳止めなどの生薬としても用いられます。この料理では、器として、そして味の核として料理に昇華させてあります。
白いクリーミーなソースは百合根やじゃがいもなどで、ねっとりした舌触りに、10年蜂蜜につけたという仏手柑(ぶっしゅかん)の、柑橘の酸味と奥深い甘さが重なります。

・瓢箪南瓜 Butternut squash(respiración)
金沢・別所のバターナッツと金沢のそうめん南瓜で、パスタのような一品に。輪島の「上田農園」さんの黄色トマトのカポナータ、マリーゴールドを添え、お花の香りを移した華やかなガスパチョーをペアリング。

・茄子 Eggpant(LAMDRE)
版画をモチーフにした茄子の料理は、黒胡麻ソースで茄子の影まで描かれております。この黒胡麻ソースがコクがあり旨味を底上げしており、茄子との相性が抜群で絶品。視覚的にも味覚的にも、静かなる衝撃があった一皿でした。

・舞茸 Maitake mushrooms(respiración)
石川県・能美市の立派な舞茸は、サブレ、鬼灯、塩麹薪焼きの三品構成。
舞茸サブレは、乾燥させたパウダー状の舞茸を堅豆腐クリームと合わせてあり、サクッと咀嚼するごとに舞茸の鮮烈な風味が広がりました。


ノンアルコールでのペアリングは「穀」。
金沢六条大麦、生姜、蜜柑

・蕪 Turnip(LAMDRE)
広東の大根餅の蕪バージョン。蕪とうるち米を使用して”蕪餅”に。発酵パプリカのソースを添え、透明感のあるフレッシュな蕪をあしらって。蕪餅は、完全植物性とは思えないお肉のような食べ応え。ヴィーガンXO醬の美味しさにも驚きました。

・大地 Earth(respiración)
野菜出汁をベースとする、加賀野菜・五郎島金時など野菜のパエリア。石川県・白山市剣崎町で栽培される唐辛子「剣先なんば」で、コースの流れに辛味のアクセントを置きます。
香の物のような付け合わせとして、山椒パウダーを振ったアイオリソース、レスピファームで育てただだちゃ豆の発酵の浅い納豆(レモングラス風味)、麹で発酵させた万願寺とうがらし、発酵わかめ、加賀野菜・加賀太きゅうりエゴマ塩漬け、蕨ピクルス。


ノンアルコールでのペアリングは「葉」。
美作番茶

・胡桃 Walnut(respiración)
手剥きした鬼胡桃と、石川県宝達志水町の希少な「宝達葛」の葛餅を、樹液スープと甘草の花のチップス(獅子柚のせ)と共に。洗練と野趣が共存したクリアで味わい深いデザート。

・無花果 Fig(respiración)
コース締めくくりは無花果のデグリネゾン。
一皿目はコンポート。無花果をじっくりとローストし、ピノ・ノワールでコンポートに。赤ワインの酸とタンニンが果肉に染み込み、ジューシーでありながらもどこか熟成感を帯びた重厚な味わいに仕上がっています。

二皿目は無花果の葉のアイスクリームで、“香り”を主役に据えて、青みを帯びたフレッシュで鮮烈な風味が口に広がります。
三品目は冷たいプティフール風のひとくちで、赤紫蘇と昆布で和の旨味と風味を乗せてあります。
それぞれが異なる、無花果の魅力の引き出し方でした。
あんがとう農園さんのフレッシュハーブを使用したハーブティーと共に。

今回のコラボディナーは、両者のフィロソフィーが共鳴し合い、それぞれのアイデンティティを尊重しながらも、想像を超える一体感を生み出しており、極めてエキサイティングでした。



