「Les Tonnelles(レ・トネル)」新展開!メキシコ出身のマルコシェフから始まる新たなストーリー

料理: 7.8 その他: 8.0 ポイントについて
Les Tonnelles (レ・トネル)
営業時間 【昼】12:00~13:00(ラストイン)、
【夜】18:00~19:00(ラストイン)
定休日 不定休
価格帯 コース 17,600円(税込、サ別10%)
訪問回数 7回(マルコシェフになってから1回、砂山シェフ在任中6回)

同店は、金沢の方はよくご存知の「ぶどうの森」(元「ぶどうの木」)グループが展開するグランメゾンで、2019年(令和元年)11月1日にオープン。砂山シェフ在任中にミシュラン2つ星を獲得しました。しかしながらシェフが退職されて、今後どうなっていくのか正直心配でしたが、なんとここに来て新展開!メキシコ人のマルコシェフが入って、新たな風を吹かせています。良い意味で期待を裏切る素晴らしい料理で、ぜひ食通の方に行ってもらいたいと思いました。
トネルの世界観やコンセプトを壊さずに、メキシコ料理のエッセンスも上手にマッチさせながら、しっかりとマルコシェフのオリジナリティも出しています。予想外の味の置き方も面白いし、若手で伸び代を感じさせるところもあり注目です。
これから始まるストーリーに期待。季節で通いたいです!

店名「Les Tonnelles(レ・トネル)」は、“ぶどう棚”や日本では“藤棚”など木棚、緑廊の意。
同グループは金沢市岩出町に本店があり、この広い敷地には、お子さんから大人まで楽しめるイタリアンカフェや洋菓子工房、豆菓子ショップ、ぶどう直売所などが並び、村のようになっており、観光バスが入るほどです。ここ「Les Tonnelles(レ・トネル)」に限っては客層を食通に絞っています。

新シェフ マルコ・サントスコイ氏

シェフ Marco Santoscoy(マルコ・サントスコイ)

メキシコ・グアナファト州生まれ。
アルゼンチンにて、フレンチをはじめとした料理の基礎を学ぶ。渡米し、ナパバレー、スコッツデールなど各地のレストランにて経験を積んでいた折、和包丁や能面といった日本の伝統工芸品と出会い、日本に興味を抱く。 理解を深めるうち「自らの感性と共鳴するものが多くある日本を、この目で見てみたい」との思いが強まり、2016年に日本へ。
豊かな食材と美しい自然、温かな人々に魅了され、その後、石川県へ移住。現在は日本特有の食材や調理法への研鑽を深めるとともに、自国文化からのインスピレーションを織り交ぜた新しいスタイルのフレンチを追求する。

とても優しくピュアなお人柄で、日本語を含めて4ヶ国語が流暢に話せるという知性的な方です。
料理には柔軟性と大胆さを兼ね備えていて、食べ手を引き込みます。

世界の建築家 坂茂氏による建物

建物は、世界の建築家 坂茂(ばんしげる)氏によるものです。

中に入って驚くのは、天井の柱や椅子などが紙管で出来ていること。これも坂茂さんのデザインの特徴。曲線、丸みが効果的に空間に温かみを与えています。

店内からは畑側にぶどう棚が見えますが、店内にもぶどうの木がニョキッと生えていてぶどう棚を形成しています。“切らずにそのままを活かす”というのが粋。のびのびとぶどうの木の呼吸が感じられます。なんて思い切ったデザインなのでしょうか。ナチュラルで斬新な新しい世界観。
夜は、まだ明るさのある夕空から刻々と漆黒へと移り変わって、レストラン内の照明で店内が映えていくのも一興。昼は自然光が入って緑が眩しく、昼夜で違った景色が楽しめます。

壮大な円形の建物 ラシェット

ぶどうの森の敷地内には、耕作放棄地を整備して作った95mの円形の畑「L’assiette(ラシェット)」があり、自然農法にて野菜や果樹などを育てており、目の前で採ってきたばかりの野菜が使えるというわけです。
本当に丸い形をしていて、夢の国のようなんです。

その野菜を使ったスペシャリテが「庭師 高田ラボ」というサラダで、円形の器はラシェットのミニチュア版です。卓上で収穫体験をしながら味わうもので、毎回旬の野菜が登場します。土に見えるものはおからをローストしたもの。

さらにラシェットでは現在、「バラの谷」プロジェクトをという計画を進めており、山のなだらかな傾斜 約1ヘクタールにバラを植える準備を進めています。近い将来、一面がバラの花で埋め尽くされるはずです。ロマンティック〜!
ペアリングドリンクにも登場するはずなので、とても楽しみです。

2023年7月23日のコース

マルコシェフの料理は、とてもエキサイティングで楽しかった。今までになかった組み合わせや、伝統料理の新しい形での昇華など、イノベーティブの楽しさを今一度教えてくれました。
そして、世界観はそのままに新しい風を吹かせていることがすごい。これはかなりの奇跡かもですよ。こんな人見つけてくるの不可能に近いでしょ。なかなかの新展開で、トネルは良い局面を迎えているなと思いました。
マルコシェフご自身も畑の四季を経験しながら、どんどんアイデアや才能を発揮していくことでしょう。


まずはお店に入る前のこのプロローグも、同店ならではの素敵な演出。頭上に広がる葡萄畑には、葡萄がたわわに実っており、最も見応えのあるシーズンです。

器は森岡希世子さん。釉薬を使わずにヤスリで磨いてあってフォルムがやわらかいので、するりと手に馴染みます。

(解説はめっちゃ長くなるので一部にさせてもらいました。)
(ペアリングドリンクは下記に)
●30種類の野菜のエッセンス 冷たいコンソメ
まずはエントランスフロアにて、飲み物が出てきました。
口の中でいろいろな野菜の味が現れて、ラシェットの光景を想像させます。これからのお料理に期待を持たせてくれる、トネルにふさわしいプロローグ。

●紫トウモロコシのニョッキ、マルコシェフ特性チチャモラーダ
アヴァン・アミューズ的に。厨房前のカウンターに移動して、シェフが一品を目の前で作ってくれるのですが、日本では普段食べない濃紫色のトウモロコシに「お!」と引き付けられました。
チチャ・モラーダは南米・ペルーの国民的ドリンクで、紫トウモロコシを煮出して果物やシナモンで香り付けしたもの。シェフのアイデンティティを織り込んだこのプレゼンで心を掴まれました。

もう一品は、もっちりしたニョッキと紫トウモロコシに冷たいスープをかけて。

●アミューズ
席に着くと、紙管デザインの3段バスケットには3種類のアミューズが。
石川県産メロン“日本一”と自家製コッパ(生ハム)、発酵唐辛子と甘エビのタルタル、佐藤錦のマリネと七尾湾のコハダの酢〆

●高田ラボ 野菜の収穫
ラシェットの野菜を使ったサラダはそのまま引き継ぎますが、ソースはマルコシェフオリジナルです。
円形の器はラシェットのミニチュア版で、卓上で収穫体験をしながら味わいます。毎回旬の野菜が登場するのも楽しみ。土に見えるものはおからをローストしたものです。
納品書の演出もウキウキします。
この日は、オクラ、水菜、アマランサス、からし菜、ピーシュート、ケール、空芯菜、金時草、ルッコラ、春菊

ソースは畑をイメージした4種類。
ビーツと発酵させた米麹をアイスクリーム状にしたソース、庭のハーブのフロマージュブラン、バラのエスプーマ、大地をイメージした黒ニンニクのパウダー

●自家製パン
ライ麦カンパーニュ、胡桃のリュスティック、バジルパンなど

●花オクラ、オクラのタルタルとハナシロカツオの藁焼き “トラのミルク”
藁でスモーキーな風味をふんわり添えたカツオに、ペルーの魚介料理セビーチェの汁で作る料理、ペルー語で“虎のミルク”をソースに添えて。

●キュウリと丘わかめのガスパチョ、能登岩ガキとサザエ
岩牡蠣と炭火焼きにしたサザエに、泡にして牡蠣で潮騒と旨みをふんわりのせて。丘わかめを使った、新しいアプローチの緑のガスパチョをソースにして。

●4種類のトマトとイサキのブランダード、アマダイの鱗揚げ
魚料理であり、トマトは4種類の調理法で、トマトのデグリネゾンでもある一皿。蒸留した赤紫蘇を加えた甘鯛スープを注いでさっぱりと仕上げます。トマトの旨みや甘みのコントラスト、鱗焼きのパリパリ香ばしさとブランダードのふわっと軽い食感を感じながら。

●ナスの詰め物、木滑の仔羊の煮込みとナスと豆乳のピューレ、浜防風のフリット
この料理も新しい印象を受けます。ナスと浜防風の滋味と、仔羊の個性が調和しているのも良かった。

●ズッキーニのデュクセルとコンフィ、“酒粕育ち”黒毛和牛の炭焼き

●完熟マンゴーとトンカ豆のエスプーマ

●畑の木苺とマカダミアナッツのフィナンシェとラベンダーのアイスクリーム
パッと鮮やかなピンク色が目をひく、愛くるしいデセールです。フィナンシェはアーモンドではなくヘーゼルナッツを使用、百合根のピュレと木苺で、気品に森の酸味で可愛らしい味わいに。

●ミニャルデーズ(芋きんつば、野イチゴのパートドフリュイ、グレープフルーツマカロン)、ハーブティーと
ここに来たら飲み物はハーブティーですよね。目の前に広がるぶどう畑と緑を眺めながら、食後の余韻に浸ります。

福島大悟さんのペアリングが素晴らしい

特筆したいのは、シニアソムリエ福島大悟さんの素晴らしいペアリングです。
アルコール・ノンアルコール共にとても素晴らしいし、ペアリングでお料理がさらに奥深さが増すので、ぜひともペアリングがオススメです。
ノンアルコールは、畑のハーブやお花などを使用し、日々試作と研究を重ね、究極を導き出します。
かなりマニアックで、レベルが高くて、世界に自慢したい。本当に素晴らしいペアリングです。

(私はアルコールとノンアルを混ぜてもらいました)

●畑のミントとベルガモットのソーダ(紙管のアミューズと)ノンアル
ミントをストローで潰しながら、フレッシュで爽やかな風味を移して。緑を眺めながら、ここで飲むハーブドリンクはまた格別。

●ぶどうの森の葡萄100%のロゼワイン「GREEN ET JAUNE 2020」(高田ラボ野菜の収穫体験と)
金沢産ぶどう5品種のブレンドで、金沢ワイナリーにて委託醸造するロゼワインです(第3段)。
エチケットにラシェットが描かれているのがとっても素敵です。畑の開拓とともに、年代でこのイラストも変化するかもしれません。
今回はシャインマスカット、紅伊豆、スチューベン、ヒムロッド、リザマートの5種類の混醸。ぶどう一つ一つ手摘みし選果して仕込んだそうです。濃い果実味と青リンゴのような爽やかな酸味が特徴。フランス語と英語の混合で、出会うはずのない葡萄の組み合わせを表現。

●森のジン(花オクラ、ハナシロカツオの藁焼き)ノンアル
霊峰白山で採取されたクロモジ、スパイシーな松、爽やかな杉、ジュニバーベリーを、一つ一つ丁寧に蒸留・抽出し、ボタニカル蒸留水をアッサンブラージュ。未熟ぶどうで酸味を加えて仕上げます。

●畑のウイキョウとマロウのお茶(能登岩ガキとサザエ)
マロウに日ノ茜というお茶を合わせ、仕上げに蒸留して作った茴香オイルを落とします。茴香の個性が、海の風味を持ち上げる。

●畑のビーツ(4種類のトマトとイサキのブランダード)
畑のビーツとリンゴを使ったソーダ

●八女伝統玉露の水出(ナスの詰め物、木滑の仔羊に)

●ぶどう、ブルーベリー、イチジク、紅玉(“酒粕育ち”黒毛和牛の炭焼きに
)

●食香薔薇ズズを使ったローズカクテル(完熟マンゴーとトンカ豆のエスプーマ
に)
レストランを後にしても余韻を残す、華やかで素晴らしいカクテル。福島さんが薔薇から抽出した香気が、それはゴージャスで優雅で、うっとりしました。氷に閉じ込めであるお花の演出も素敵です。

「ぶどうの森」金沢土産の新名物としてもはやメジャーになった型抜きバウム。子供大喜び!